シストセンチュウ(読み)しすとせんちゅう(その他表記)cyst nematode

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シストセンチュウ」の意味・わかりやすい解説

シストセンチュウ
しすとせんちゅう / 被嚢線虫
cyst nematode

袋形(たいけい)動物門線虫綱に属するヘテロデラ属Heteroderaとグロボデラ属Globoderaの植物寄生線虫。温帯から寒帯に至る地域に分布する線虫で、100種近くが知られている。雌成虫は白色で直径1ミリメートル足らずの球形ないしレモン形であるが、この雌が死ぬと、体が白色から褐色に変わり、300~500個の卵を入れたケシ粒大の袋になる。これをシストcystとよぶのでこの名がある。線虫の生活は、まず体長約0.5ミリメートルの細長い幼虫が根に侵入し、組織の1か所に定住して雌または雄の成虫に成長する。雄は体長約1.5ミリメートルで細長いが、雌は体の肥大につれて根の組織を破り表面にはみ出すので、注意すると肉眼でも観察できる。シスト内の卵は土の中で5年以上も0℃以下の低温や乾燥に耐え、寄主植物が植えられると、その根から出される特有の化学物質に感応して一斉に孵化(ふか)し、幼虫は根の方向に進んで寄生する。日本では、古くからダイズ被害を及ぼすダイズシストセンチュウH. glycines、1972年(昭和47)北海道ジャガイモに初発生した世界一級の重要病害虫の一つジャガイモシストセンチュウG. rostochiensisなどがある。同じ作物連作は土壌中の線虫密度を飛躍的に高めて大被害の原因となる。

一戸 稔]

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改訂新版 世界大百科事典 「シストセンチュウ」の意味・わかりやすい解説

シストセンチュウ
cyst nematode

ダイズ萎黄(いおう)病の病原センチュウであるダイズシストセンチュウHeterodera glycines,ジャガイモに大きな被害をもたらすジャガイモシストセンチュウGlobodera rostochiensisなどを含む,センチュウの中で農業上もっとも重要なヘテロデラ科Heteroderinae亜科のセンチュウの総称。雌成虫はレモン型や球形に肥大し,数百個の卵は体内で成熟,一部体外に産む。その後,卵を内蔵したまま死んで褐色のシスト(包囊)となる。シスト内の卵は土壌中で乾燥や低温に耐えて数年~十数年も生存し続け,寄主植物が栽培されると孵化(ふか)して幼虫が根に侵入する。幼虫は約40~50日で成虫になる。発芽後2ヵ月目ころ,退緑黄化した作物の根を見ると,0.6mmくらいの白色~乳白色の雌成虫が多数認められる。ジャガイモシストセンチュウは,この雌成虫がある時期に鮮やかな黄金色を呈するところからゴールデンネマトーダgolden nematodeとも呼ばれる。シストセンチュウ類は概して寄主範囲が狭いので,防除対策としては非寄主作物や抵抗性品種を組み合わせた輪作が有効である。
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