翻訳|trichina
線形動物門双器綱鞭虫(べんちゅう)目旋毛虫科に属する寄生虫。トリヒナともいう。成虫は非常に小さく、雄の体長1.4~1.6ミリメートル、雌3、4ミリメートルで、ヒト、ブタ、イヌ、ネコ、クマ、ネズミなどの小腸に寄生する。これを腸トリヒナという。
発育環は特異で、成虫と幼虫が同一宿主内に寄生し、卵や幼虫が外界に排出されることがない。宿主の小腸内の成虫は、交尾したのち、雄はまもなく死ぬが、雌は小腸粘膜に侵入して数百匹の幼虫(卵胎生)を産む。幼虫はリンパあるいは血流にのって全身に運ばれる。このうち横紋筋(とくに横隔膜、舌筋など)に達した幼虫だけが生き残る。幼虫の長さは約1ミリメートル、やがて小さな袋に包まれ、その中で丸まって数年間生存する。このように筋繊維に寄生した幼虫を筋肉トリヒナという。筋肉トリヒナが別の宿主に食われると、その小腸内で成虫になる。
[町田昌昭]
トリヒナ症ともいい、人獣共通感染症である。旋毛虫幼虫の寄生した不完全調理あるいは生の獣肉を食べることにより感染し、小腸上部で幼虫を包んだ袋が消化され、脱出した幼虫は3~5日で成虫となり、雌は腸粘膜内に幼虫を産出する。いちじに多数が侵入すると腹痛や下痢、ときに血便などの消化器症状を呈する。しかし、おもな症状は筋肉内に侵入した幼虫によるもので、高熱、発疹(はっしん)、目の周囲の浮腫(ふしゅ)、筋肉痛などがみられ、末梢(まっしょう)血中における好酸球の増加は診断の手掛りとなる。潜伏期は通常10~20日くらい。急性期で重症の場合には、横隔膜、肋間(ろっかん)筋、心筋などが侵されて死亡することもまれではない。
診断としては、食べた肉の検査をはじめ、筋生検のほか、患者血清による免疫学的検査が行われる。治療としては、メベンダゾールとステロイド剤との併用投与が有効である。欧米では古くから知られ、現在では世界的な規模で分布しており、アジア地域ではとくにタイ北部が最大の流行地である。日本でも1974年(昭和49)以来、青森県や三重県などで、ツキノワグマやヒグマの刺身、輸入ブタ肉による発症例がある。
[山口富雄]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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