改訂新版 世界大百科事典 「地域生態学」の意味・わかりやすい解説
地域生態学 (ちいきせいたいがく)
geoecology
Landschaftsökologie[ドイツ]
地表のあるまとまった部分としての地域の特質を理解することは,古くから地理学の重要なテーマであった。とくに伝統的な地誌学においては,特定の地域を対象に,気候,地形,土壌,植生などの自然事象,民族,人口,交通,土地利用などの文化事象について,網羅的な記載を行うことに主眼が置かれてきた。さらに近年では,社会的要請にこたえて学際的な地域科学,地域計画学が急速に進展し,さまざまな分析手法が開発され,単なる記載にとどまらない客観的な地域の認識が可能となってきた。しかし一方で,分析科学的手法では,地域の一側面は理解できても,地域の全体像の解明にはつながらないという批判がおこってきた。地域生態学は,そうした批判を踏まえ,総合的な見地に立って地域の認識を深めようとするものであり,研究の重点は,自然・人文両事象の複合的関係,すなわち地域生態系の解明にある。また,景観の概念に地域的意味が含まれるドイツ,東ヨーロッパでは,景観生態学の名のもとに,類似の研究が進められている。
地域生態学においては,まずはじめに,複合的性格を反映する指標を用いて総体としての地域が区分される。その際,空中写真の判読は,相観的な地域の全体像を把握する手段として有効に用いられる。つぎに,それぞれの地域内および地域間の諸事象の相互関係が考察される。最近では,多変量解析手法を用いて相互関係を地域モデルの中で表現しようとする試みも行われている。また,区分された地域単位の空間分布とその特質,地域の変化過程の把握にも重点が置かれる。地域生態学は,地域の総合的理解を追究するという点で,これからの地域研究のあり方に対し示唆を与えるとともに,バランスのとれた総合的な地域計画を策定するための基礎としても重要であるといえる。日本では,残念ながら地域生態学的研究は活発ではないが,今後各地で研究事例が蓄積される必要があろう。
執筆者:武内 和彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報