改訂新版 世界大百科事典 「地球流体力学」の意味・わかりやすい解説
地球流体力学 (ちきゅうりゅうたいりきがく)
geophysical fluid dynamics
海洋や大気など,地球をとりまく流体の力学的性質を一般的に考察する学問。従来,地球規模の流体運動は,それぞれ別の分野で研究されてきた。例えば海洋の運動は海洋物理学,大気の運動は気象学,マントル対流や外核(核)の流体運動(これにより地球の主磁場が形成される)など地球内部の運動は地球内部物理学のそれぞれ重要な部分を占めている。ところが,このような一見多種多様な地球流体運動にも,よく整理してみればきわめて基本的な共通点がいくつか見いだされる。その第1は地球の自転の影響が無視できないこと,第2に流体が重力場にあってその存在範囲が有限の領域に限られていること,第3に密度変化に伴う浮力の作用で流体が運動すること,などである。海流や風などの個々の自然現象は上記のような共通な流体の性質を反映しているはずであるから,別々の流体運動のメカニズムをある程度共通の基盤に立って論じ,その結果が自然現象をどの程度表現しうるかを議論するのが地球流体力学的立場であるといえる。
地球流体力学という概念が生まれてから今日まで,まだ30年も経ていないので,学問体系が確立されているわけではなく,その定義さえもあいまいなところが残っている。例えば池に生ずるさざ波も,春から夏にかけてよく見られるかげろうも,地球上の流体が運動しているという意味で地球流体力学の対象とするべきだと考える人もいる。しかし,普通は地球流体力学といえば,前述のようにその回転が運動に影響を及ぼす程度の大規模な運動のみを対象とする。また木星大気の運動なども地球流体力学の一部として扱うこともある。
執筆者:宮田 元靖
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報