地球上の諸地域にある人類社会(地域社会)が示す社会的・経済的・文化的特色や精神的特質などに対して、地域社会を取り巻く自然環境が決定的影響力をもち、自然環境諸要因が社会的発展を方向づけるとする考え方。気候が人間の性格や気質を左右するという考え方は古くはギリシア時代にもあったが、近世の啓蒙(けいもう)主義者たちも気候と人間の気質や文化水準との関係を論じた。19世紀にもこの立場から環境決定論が主張され、国家有機体説を唱えたドイツの地理学者F・ラッツェルはその旗頭と目されたが、やがて社会発展の動因は人類の主体的能動性にあるとする立場から批判を加えられ、理論的には破綻(はたん)した。弁証法的唯物論とはまったく無縁の存在であって、よく「素朴なる」地理的唯物論と形容されるが、その理論的破綻にもかかわらず、なおこれを信奉する者もないわけではない。
[河野通博]
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