出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
杯、盞とも書く。古代に盤(さら)、埦(わん)などと組み合わせて多く飲食の器として用いられ、灯油をともす器にもあてられた。「正倉院文書」や『延喜式(えんぎしき)』などの記載によって、用途や大きさなどを知ることができる。『延喜式』には、
「中片坏径六寸、四合を受ける。酒盞、汁漬坏径五寸、五合を受ける。窪坏(くぼつき)径五寸、深さ一寸5分、筥坏(はこつき)四合、小坏三合、韲坏(あえつき)二合、燈盞(あぶらつき)二合」
などの記載がある。これらからして坏とは、径三寸(9.3センチメートル)ないしは六寸(18.6センチメートル)、容量二合ないしは五合(一合はいまの0.59合)の小形の器をさしたもののようである。当時、大和(やまと)に玉手土師(たまてのはじ)と贄土師(にえのはじ)、河内(かわち)に坏作土師(つきつくりのはじ)と贄土師という工人集団があって、各種の坏など土師器を調として貢納している。なお『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』では陶器(すえうつわもの)のなかに盃盞(さかつき)をあげており、『延喜式』には尾張(おわり)国や長門(ながと)国から貢進した瓷器(しのうつわもの)のなかに花形塩坏を記しているように、坏の材質には、土師器、須恵器(すえき)、瓷器(しき)の3種があったと考えられる。
明治・大正期の考古学者は、古典に現れた名称を、発掘された土器の器種にあてようと努めたが、『延喜式』に数多く上げられている坏の各種を同定するまでにはまだ至っていない。今日の考古学では、坏とは茶碗(ちゃわん)や鉢よりも器壁が低く、皿よりは器壁の高い器をさしている。須恵器のなかには、5世紀朝鮮半島から伝来した当初に坏の器種があり、丸底で蓋(ふた)のついた蓋坏(ふたつき)が本来の形であったとみられるが、7世紀以降になると、平底や高台のついた器形が普遍的となる。
[木下 忠]
…これらのうちには〈角〉のつく字が多く,古く獣角の杯が用いられたことが知られる(角杯,リュトン)。日本語の〈さかずき〉は〈酒のつき(坏,杯)〉の意で,〈つき〉は鉢形の土器をいった。古くから一般的には素焼きのかわらけが用いられ,やがて陶磁器,金銀器,漆器などが使われるようになった。…
…皿のように浅い器を脚台上にのせた形状の器。坏(杯)(つき)は縁の器壁が比較的低い器である。平城宮出土の土師器(はじき)の高杯には,〈高坏〉〈高盤(たかさら)〉と墨書したものがある。…
※「坏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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