改訂新版 世界大百科事典 「塩化アンチモン」の意味・わかりやすい解説
塩化アンチモン (えんかアンチモン)
antimony chloride
塩化アンチモン(Ⅲ),塩化アンチモン(Ⅴ),九塩化アンチモンの3種が知られている。
塩化アンチモン(Ⅲ)
三塩化アンチモンともいう。化学式SbCl3。無色柱状または八面体の結晶。アンチモンに直接塩素を反応させるか,輝安鉱Sb2S3を塩酸に溶かして濃縮し,蒸留しても得られる。融点73.4℃,沸点223℃,比重3.14(20℃)。潮解性が強く,放置すると粘い半液状となることが多く,アンチモンバターの名で古くから知られている。水に溶解するとオキシ塩化アンチモン(Ⅲ)SbOCl(塩化アンチモニルともいう)を生じ,酸性を呈して濁る。塩酸酸性溶液で硫化水素と反応して硫化アンチモン(Ⅲ)Sb2S3の橙色の沈殿を生ずる。フッ素とは激しく反応してフッ化アンチモン(Ⅲ)SbF3を生ずる。有機溶媒に可溶。クロロホルム溶液はビタミンAで青色を呈するので,ビタミンA検出に用いられる。種々の有機分子と1:1あるいは2:1等の分子化合物をつくることが知られている。
塩化アンチモン(Ⅴ)
五塩化アンチモンともいう。化学式SbCl5。塩化アンチモン(Ⅲ)に塩素を作用するか,アンチモンを塩素中で燃焼させると得られる。高純度のものは無色,通常は黄色の発煙性液体。融点2~4℃,比重2.340(20℃)。吸湿性が強い。アンモニアを吸収する性質がある。水には水和物をつくって沈殿する。クロロホルム,アルコール,ベンゼンに溶ける。濃塩酸に溶けるとヘキサクロロアンチモン(Ⅴ)酸HSbCl6を生ずる。これは塩素を放ちやすいので有機合成の塩素化剤として用いられる。金属塩化物とは六塩化アンチモン酸塩に相当する各種結晶性化合物のSbCl5・KCl・H2O等を生成する。アセチレンC2H2を通ずると付加化合物SbCl5・C2H2をつくる。
九塩化アンチモンantimony enneachloride
化学式SbCl9。-81℃の低温において存在するといわれる。
執筆者:漆山 秋雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報