塩化水銀(読み)エンカスイギン(その他表記)mercury chloride

デジタル大辞泉 「塩化水銀」の意味・読み・例文・類語

えんか‐すいぎん〔エンクワ‐〕【塩化水銀】

塩化水銀(Ⅰ)。硫酸水銀(Ⅱ)あるいは塩化ナトリウム水銀との混合物を熱すると生じる白色の結晶。多少甘みがある。標準電極などに使用。化学式Hg2Cl2 カロメル甘汞かんこう。塩化第一水銀。
塩化水銀(Ⅱ)。酸化水銀(Ⅱ)を塩酸に加温溶解してから放冷して作る無色の針状結晶。水に溶けにくい。猛毒。殺菌剤・有機触媒・分析試薬に使用。化学式HgCl2 昇汞しょうこう。塩化第二水銀。

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精選版 日本国語大辞典 「塩化水銀」の意味・読み・例文・類語

えんか‐すいぎんエンクヮ‥【塩化水銀】

  1. 〘 名詞 〙 塩素と水銀との化合物の総称。
  2. 塩化水銀(I )。塩化第一水銀。化学式 Hg2Cl2 白色で光沢のある結晶または粉末。水、有機溶媒には溶けないが王水には溶ける。劇薬。医薬品として、利尿剤、下剤などに用いるほか、標準電極に用いる。甘汞(かんこう)。カロメル。
  3. 塩化水銀(II )。塩化第二水銀。化学式 HgCl2 白色で透明の結晶。酸化第二水銀を塩酸に溶解してつくる。熱や光に安定。猛毒。消毒薬、防腐薬、有機合成の触媒、水銀化合物の製造原料、写真、分析試薬などに用いる。昇汞(しょうこう)。猛汞(もうこう)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「塩化水銀」の意味・わかりやすい解説

塩化水銀
えんかすいぎん
mercury chloride

水銀と塩素の化合物。1価および2価の化合物が知られている。

(1)塩化水銀(Ⅰ)(塩化第一水銀) 通称は甘汞(かんこう)、カロメルともいう。硝酸水銀(Ⅰ)水溶液に塩酸を加えて得られる無色で光沢がある結晶。熱すると400~500℃で融解することなく昇華する。分子性の化合物で、分子は[Cl―Hg―Hg―Cl]のような直線型構造であり、したがって水にはきわめて難溶性である(43℃の水1リットルに7ミリグラム溶解)。エタノールエチルアルコール)に溶ける。利尿剤、下剤などとして用いられていたが現在ではほとんど利用されていない。劇薬であって注意が必要。また甘汞電極に用いられる。

(2)塩化水銀(Ⅱ)(塩化第二水銀) 通称は昇汞(しょうこう)。酸化水銀(Ⅱ)HgOを塩酸に加温溶解してから放冷し結晶させてつくる。あるいは水中で水銀に塩素を反応させてつくる。無色の結晶。[Cl―Hg―Cl]のような直線型分子からなる分子性結晶で、水にはわずかしか溶けない。エタノール、アセトンなどに溶ける。水中では加水分解してわずかに酸性を示す(pH4.7)が、塩化アルカリを加えると加水分解が抑えられ、しかもクロロ錯イオン[HgCl4]2-を生成して溶解度が増す。したがってこのときは中性となる。医薬品として消毒剤防腐剤として用いられる。同量の塩化カリウムと赤色着色剤を加えたものが昇汞錠である。そのほか有機合成用触媒などとして用いられる。猛毒で、致死量0.2~0.4グラム。中毒には、胃洗浄、卵、牛乳の飲用のほかバル(BAL1,2-ジチオグリセリン)などの解毒剤を用いる。

[中原勝儼]


塩化水銀(データノート2)
えんかすいぎんでーたのーと

塩化水銀(Ⅱ)
  HgCl2
 式量  271.5
 融点  277℃
 沸点  304℃
 比重  5.44(測定温度25℃)
 結晶系 斜方
 溶解度 3.6g/100mL(水0℃)


塩化水銀(データノート1)
えんかすいぎんでーたのーと

塩化水銀(Ⅰ)
  Hg2Cl2
 式量  472.1
 融点  383℃(昇華)
 沸点  -
 比重  7.15
 結晶系 正方

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改訂新版 世界大百科事典 「塩化水銀」の意味・わかりやすい解説

塩化水銀 (えんかすいぎん)
mercury chloride

塩化水銀(Ⅰ)と塩化水銀(Ⅱ)とがある。

化学式Hg2Cl2。比重7.15。やや甘味をもつために甘汞(かんこう)(汞は水銀の意味)とも呼ばれる。硝酸水銀(Ⅰ)水溶液に塩酸または塩化ナトリウムを加えると得られる。白色固体。結晶は直線状の二量体分子Cl-Hg-Hg-Clを有し,Hg-Hg間距離は2.53Åと短く結合していることを示す。反磁性体。加熱すると383℃で昇華し,気相ではHgとHgCl2とに解離していると考えられる。また光に敏感でHgとHgCl2とに変化する。水には難溶である。溶解度2.95mg/100g H2O(25℃)。アンモニアと反応して塩化水銀アミドHgNH2Cl(白色)とHg(細粒で黒色)を生じ,生成物は深黒色を呈する。このために塩化水銀(Ⅰ)のことをカロメルcalomel(ギリシア語で美しい黒色の意味)とも呼び,これを使った甘汞電極をカロメル電極という。

化学式HgCl2。昇華性があるので昇汞の別名がある。無色の結晶,融点277℃,沸点304℃,比重5.44(25℃)。水銀と塩素ガスとの反応,塩化ナトリウムと硫酸水銀(Ⅱ)との混合物を300℃で加熱するなどの方法によって合成される。結晶は直線状のCl-Hg-Cl分子から成る分子格子であり,また気相においてもやはり直線状単量体である。水に対する溶解度は比較的小さく,6.1g/100g H2O(20℃),水溶液中ではほとんど解離せず中性分子の形で存在する。エチルアルコール,アセトン,エーテルなど多くの有機溶媒に溶ける。塩化物イオンを含む溶液ではHgCl3⁻,HgCl42⁻を生成する。1000~5万倍溶液として防腐剤,消毒薬に古くから使われていたが,その猛毒性のために用途は少なくなっている。50%致死量LD50=37mg/kg(ラット)。中毒のときは,牛乳,生卵白をのませて胃洗浄する。また2,3-ジメルカプト-1-プロパノール(BAL(バル))は強力な解毒剤である。塩化水銀(II)は,条件によってはさらに猛毒な有機水銀に変化することがある。
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化学辞典 第2版 「塩化水銀」の解説

塩化水銀
エンカスイギン
mercury chloride

】塩化水銀(Ⅰ):Hg2Cl2(472.09).甘コウ(カロメル)ともいう.硝酸水銀(Ⅰ)の水溶液に塩化ナトリウム水溶液を加えると得られる.白色の粉末.密度7.15 g cm-3.水にほとんど不溶(25 ℃ で2.95 mg L-1),エタノール,エーテルに不溶,硝酸,塩酸に微溶.光によってHgCl2とHgに分解する.融点525 ℃(封管中).開放した容器中では,溶融することなく昇華する.複核で,Hg-Hg0.253 nm.アンモニア水と反応するとHgClNH2とHgの黒色の混合物が得られる.カロメル電極,医薬品,花火に用いられる.無毒.[CAS 10112-9-1]【】塩化水銀(Ⅱ):HgCl2(271.50).昇コウともいう.硫酸水銀(Ⅱ)と塩化ナトリウムを混合し,少量の酸化マンガン(Ⅳ)を加え加熱昇華してつくる.斜方晶系の無色の結晶.密度5.44 g cm-3.融点276 ℃.304 ℃ で昇華する.水,エタノール,エーテル,酢酸,ピリジン,ベンゼンに可溶.水溶液は放置すると徐々に加水分解してHg2Cl2を生じ酸性を呈するようになる.アルカリ塩化物の水溶液中では急激に溶解度が増大して,Na2[HgCl4]のような形で溶けている.きわめて有毒で致死量は0.2~0.4 g といわれている.分析試薬,ネスラー試薬,消毒剤,有機合成の触媒,水銀(Ⅱ)化合物の合成原料,医薬品,写真などに用いられる.[CAS 7487-94-7]

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百科事典マイペディア 「塩化水銀」の意味・わかりやすい解説

塩化水銀【えんかすいぎん】

(1)塩化第一水銀Hg2Cl2。比重7.15,融点525℃,昇華点383℃。甘汞(かんこう)とも。食塩と水銀の混合物を熱して昇華させると得られる無色の結晶。水,アルコールに難溶。標準電極および緩下剤として用いられる。(2)塩化第二水銀HgCl2。比重5.44,融点277℃,沸点304℃。昇汞(しょうこう)とも。硫酸第二水銀と食塩とから得られる無色の結晶。水にやや溶け,アルコールによく溶ける。触媒,試薬,器具や皮膚の殺菌・消毒剤として用いられる。きわめて有毒。致死量0.2〜0.4g。
→関連項目甘汞昇汞昇汞中毒

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「塩化水銀」の意味・わかりやすい解説

塩化水銀
えんかすいぎん
mercury chloride

(1) 塩化水銀 (I)   Hg2Cl2 。甘汞 (かんこう) ,カロメルともいい,白色,無臭,甘味。比重 7.15。融点 525℃ (密閉) 。太陽光線により徐々に分解し,塩化水銀 (II) と金属水銀に変る。水に難溶。アンモニア,水酸化アルカリによって黒変する。暗緑の信号花火,カロメル紙,磁器着色剤 (金を併用) ,カロメル電極,殺菌剤などに用いられる。
(2) 塩化水銀 (II)   HgCl2 。昇汞 (しょうこう) ともいい,結晶または白色粉末。猛毒,致死量 0.2~0.4g。比重 5.4,融点 277℃。約 300℃で分解せず蒸発する。常温でもいくぶん揮発性があり,100℃以上で著しい。水,アルコール,エーテル,グリセリン,酢酸に可溶。アルブミンなど蛋白質を凝固させる。水酸化ナトリウムにより黄色の沈殿を生じる。木材,解剖試料の防腐剤,殺菌剤などに使われる。

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