外陰がん(読み)がいいんがん(英語表記)carcinoma vulvae

六訂版 家庭医学大全科 「外陰がん」の解説

外陰がん
がいいんがん
Vulvar cancer
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 外陰とは、性器の外側の部分(恥丘(ちきゅう)、大陰唇、小陰唇、陰核、外尿道口、腟前庭(ちつぜんてい)会陰(えいん)など)の総称です。

 外陰がんは、婦人科が扱う悪性腫瘍のなかで3~4%と少なく、日本での年間発生数は10万人あたり0.5人以下で、比較的まれな病気です。大部分は50歳以降に発生し、とくに60代以降に多いとされています。

 このがんは、外陰部の表面にできることが多いので、患者さん自身も早期から異常に気づきやすいと思われますが、多くの場合は進行がんとして発見されます。その理由としては、患者さんが外陰部の腫瘤(しゅりゅう)(はれもの)、潰瘍(かいよう)、長期間続くかゆみなどに気づいていても、婦人科の受診に抵抗感をもつために、受診までの期間が長くなることなどが考えられます。

原因は何か

 いまだ不明な点が多いのですが、少なくとも2つの異なる原因が考えられています。ひとつは、ヒトパピローマウイルス(コラム)の感染をきっかけにがんが発生するもので、この場合は比較的若い人に発生するとされています。

 もうひとつは、硬化性苔癬(こうかせいたいせん)(外陰部などに硬い丘疹(きゅうしん)が数多くできる)などの炎症性疾患が元になって、がんが発生すると推測されています。

症状の現れ方

 初めのうちは、しつこく続くかゆみと腫瘤が主な症状です。がんが進行してきて潰瘍が形成されると、痛みや排尿時の灼熱感(しゃくねつかん)などを感じるようになります。

検査と診断

 早期診断に不可欠なのは、注意深い外陰部の視診です。外陰部は乾燥している部分なので、細胞診で診断するために良好な標本を得ることが比較的困難です。確定診断は拡大鏡を用いてよく観察し、疑わしい部位の生検(組織の一部を採取して調べる検査)を行います。

治療の方法

 外陰がんは、がんの大きさや外陰部周囲の臓器への進展リンパ節転移の有無などによって4つの進行期に分けられ(表4)、治療方法が異なります。

 進行期1期あるいは2期のがんに対しては、広汎外陰切除と鼠径(そけい)リンパ節郭清(かくせい)が標準的な術式になっています。郭清とは、がんの転移の有無にかかわらず、周辺のリンパ節をすべて切除することです。

 1期では、切除範囲やリンパ節郭清の範囲を縮小する場合もあります。

 進行期3期以上では、広汎外陰切除、骨盤内臓全摘術が行われる場合や、放射線療法化学療法(抗がん薬)を併用して治療にあたる場合があります。

 治療成績は、進行期によって異なります。表4に、1995年の日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会による、5年間生存した外陰がん(扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん)の患者さんの割合(5年生存率)を示しました。ただし、この数値には、老衰ほかの病気で死亡した人も含まれているので、外陰がん自体の生存率はこの数値より高くなります。

病気に気づいたらどうする

 外陰部の腫瘤やしつこいかゆみなどがある場合には、積極的に婦人科を受診することをすすめます。治療は婦人科と皮膚科、あるいは形成外科が協力して行います。

関連項目

 子宮頸がん尖圭コンジローマ

八杉 利治


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「外陰がん」の解説

がいいんがん【外陰がん Cancer of Vulva】

[どんな病気か]
 外陰部に発生するがんで、大陰唇(だいいんしん)に発生することがもっとも多く、小陰唇(しょういんしん)や陰核包皮(いんかくほうひ)からも発生します。
 一方、子宮がんや腟(ちつ)がんが外陰に転移することもあります。
 外陰がんは、女性性器がんの1~3%を占め、ほとんどが更年期以降の高年齢者に発生します。
[症状]
 外陰部に腫瘤(しゅりゅう)(しこり)や白斑(はくはん)ができたり、慢性的な湿疹(しっしん)(ただれ)やびらんがみられ、ひどくなると潰瘍(かいよう)となったりします。また、かゆみやほてり感、痛みなどを感じることもあります。
[検査と診断]
 肉眼で症状のある部位を確認し、その部位の細胞診(さいぼうしん)や組織検査を行なって診断します。
 なお、まれに、暗褐色の隆起した腫瘤ができる外陰悪性黒色腫(がいいんあくせいこくしょくしゅ)(悪性黒色腫についてはメラノーマ(「メラノーマ(悪性黒色腫)」)参照)という病気の場合もあります。
[治療]
 手術療法として、外陰部を切除し、鼠径(そけい)リンパ節(せつ)などの周囲のリンパ節を含めて広く摘出(てきしゅつ)します。
 そのほかに、リニアック(直線加速装置)やラジウムなどを用いた放射線療法を行なうこともあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「外陰がん」の意味・わかりやすい解説

外陰癌 (がいいんがん)
carcinoma vulvae

女性の外陰,すなわち恥丘,大陰唇,小陰唇,陰核,腟前庭,外尿道口,腟入口部,会陰およびそれらの付属器官に発生する癌の総称。婦人科の癌の1~2%と比較的まれな疾患であるが,高年者に多い。大部分が扁平上皮癌で,ほかに腺癌,まれには悪性黒色腫などがある。はじめは小さい腫瘤や浅い潰瘍であるが,しだいに増大して大きな腫瘤となり,腟,尿道,直腸などにひろがり,また鼠径部(そけいぶ)のリンパ節さらに骨盤内のリンパ節にも転移する。治療法は,手術と放射線治療がある。手術は,初期では病巣部分のみを切除することもあるが,原則的には外陰を摘出し,鼠径部のリンパ節を摘出する。

 外陰癌は体の表面に発生するから診断は容易なはずだが,実際には,単なるできものと思って軟膏などを自分で塗り,病気が進行してから受診することが少なくない。外陰部にできものや傷を見つけたら,すぐに婦人科を受診する必要がある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「外陰がん」の意味・わかりやすい解説

外陰癌
がいいんがん

女性性器の外陰部に発生する癌で、女性性器癌のうちでは比較的まれなもの(3~5%)である。大部分は皮膚組織を発生母地とする扁平(へんぺい)上皮癌である。外陰部が肥厚して灰白色となる外陰白斑(はくはん)症や、皮膚が萎縮(いしゅく)して頑固なかゆみを訴える高齢者に多い外陰萎縮症が前駆症といわれる。大陰唇に多発し、初期には硬いしこりを認める程度であるが、進行すると潰瘍(かいよう)をつくり、やがてカリフラワー状に盛り上がる。かゆみ、灼熱(しゃくねつ)感、疼痛(とうつう)を訴える。治療は広範囲にわたる外陰部の摘出手術が一般的で、放射線療法も行われる。最近はブレオマイシンなど有効な抗癌剤も開発されているが、一般には予後良好とはまだいえない。

[新井正夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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