多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2型)

内科学 第10版の解説

多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2型)(多発性内分泌腫瘍症)

概念
 MEN 2型は2A型,2B型,家族性甲状腺髄様癌(FMTC)の3つに細分化される(表12-9-2).いずれも常染色体優性遺伝形式をとり,家族内発症する.
 MEN 2A型では甲状腺髄様癌,褐色細胞腫,副甲状腺機能亢進症を合併する.本症は1961年にSippleらが褐色細胞腫に甲状腺髄様癌を合併した症例を最初に記載したことから,Sipple症候群ともよばれる.MEN 2B型(以前3型とよばれた)では甲状腺髄様癌,褐色細胞腫,Marfan様体型,粘膜神経腫(または節神経腫)を合併する.FMTCは甲状腺髄様癌のみが出現する.
病因
 MEN 2型の原因遺伝子は第10染色体長腕(10q­11.2)に局在し,1993年にRET癌遺伝子であることが同定された.RET遺伝子は21個のエクソンから構成され,膜貫通型チロシンキナーゼをコードする.RETはカドヘリン結合部位およびシステインに富む部位をもつ細胞外ドメイン,膜貫通ドメイン,チロシンキナーゼをもつ細胞内ドメインから構成される.RETのリガンドの1つにグリア細胞株由来神経因子(GDNF)があり,GFRαとよばれるコファクターを介してリガンドと結合するとRETは二量体を形成して活性化される(図12-9-1).
 MEN 2A型と2B型いずれもRET遺伝子の点変異が同定されている.これらの点変異はすべて細胞外ドメインおよび細胞内チロシンキナーゼドメインに局在している(図12-9-1).MEN 2A 型の変異では細胞外ドメインのシステインに富む部位(コドン609~634)のなかでも“hot spot”としてコドン634(システインがアルギニンに置換されたミスセンス変異)が最も多い.MEN 2B型の変異では細胞内チロシンキナーゼドメイン(コドン883~922)のなかでもコドン918(メチオニンがスレオニンに置換されたミスセンス変異)が最も多い.RET遺伝子変異部位と病型分類による臨床像との間には密接な関連性(genotype-phenotype relation)があることが知られている.
 MEN 2型におけるRET遺伝子の変異は機能獲得型(“gain-of-function”)であり,その腫瘍の発生機序として次のような可能性が提唱されている(図12-9-1).正常ではRETの細胞外ドメインのシステイン残基はS-S結合で分子内で架橋しており,GDNF/GFRαの結合によって二量体化してチロシンキナーゼの活性化が生じる(図12-9-1A).MEN 2A型ではRETの細胞外ドメインのシステイン残基の変異で,S-S結合は分子間で架橋して,二量体を形成する結果,チロシンキナーゼがリガンド非依存性に構成的に活性化される(図12-9-1B).一方,MEN 2B 型ではRETの細胞内ドメインのチロシンキナーゼの変異で,チロシンリン酸化の基質特異性が失われるために,単体のままでも恒常的に活性化される(図12-9-1C).いずれもRETのチロシンキナーゼが構成的に活性化される結果,細胞内シグナル伝達の亢進によって細胞の増殖(過形成)や形質転換(腫瘍)をきたすとされる.しかし,システインに富む細胞外ドメインや細胞内チロシンキナーゼドメインの同じ部位の変異であってもMEN 2A型や甲状腺に限局したFMTCといった別々の家系に分かれる機序は不明である.
病態生理
1)甲状腺髄様癌:
甲状腺髄様癌はカルシトニン産生細胞であるC細胞由来で,過形成から結節,微小癌,顕性癌へと進展する.MEN 2A型,2B型ともに発症は必発(100%)である.本症の髄様癌は散発性とは異なり,多中心性,両側性に発生する.発症年齢はMEN 2B型で20歳代,MEN 2A型やFMTCで30~40歳代,といずれも散発例よりも若年に分布する.病変の進展により頸部リンパ節転移がみられ,さらに肺や肝へ血行転移する.MEN 2B型は2A型よりも早期に転移しやすい. 甲状腺髄様癌では血中カルシトニンが高値を示すが,臨床症状を欠如する.腫瘍からはカルシトニン以外にCEAやクロモグラニンAを分泌するため,いずれも腫瘍マーカーとして役立つ.腫瘍が異所性にACTHを産生して,Cushing症候群を合併することもある.
2)褐色細胞腫:
褐色細胞腫は甲状腺髄様癌より5~10年遅れて発症し,両側性に起こることが多いが,悪性はまれとされる.MEN 2A 型,2B 型ともに発症は約50%である.褐色細胞腫はカテコールアミン(アドレナリン,ノルアドレナリン)を産生・分泌するため高血圧,頭痛,動悸などの症状が出現する.また発作性に症状が出現して高血圧クリーゼを呈することもある.
3)副甲状腺機能亢進症:
本症はMEN 2A型でのみ発症合併し,MEN 2B型ではみられない.MEN 2A型での副甲状腺機能亢進症はMEN 1型よりも発症頻度(10~35%)は低く,発症年齢も30歳以降と遅い.副甲状腺病変は4腺の過形成また腺腫を呈する.
4)Marfan様体型:
MEN 2B型では高頻度にMarfan様体型(細く長い四肢)といった身体的異常を伴う.しかし,Marfan症候群のように水晶体亜脱臼や大動脈瘤を合併することはない.
5)粘膜神経腫(節神経腫):
MEN 2B型ではほぼ全例に眼瞼,舌,口唇の粘膜に神経腫が出現するために口唇肥厚と結節舌による特有の顔貌を呈する.腸管神経節に発生した神経腫により便秘,腹痛,巨大結腸症などの消化器症状が出現する.
診断
 甲状腺髄様癌は甲状腺の腫瘤が増大して触知したり,超音波検査で腫瘤を指摘されることが診断のきっかけとなる.無症状のため画像検査(超音波,CT,MRI),血中カルシトニンやCEAの高値,吸引細胞診などで診断する.MEN 2B型の患者や家族(特に子ども)で血中カルシトニンが正常域である場合,カルシウムやガストリン刺激試験を行い,カルシトニン分泌の過剰反応により,腫瘍の有無を確認する. 褐色細胞腫はアドレナリン優位で典型的な場合,過剰分泌による5H(高血圧:hypertension,頭痛:headache,発汗過多:hyperhydrosis,高血糖:hyperglycemia,代謝亢進:hypermetabolism)を呈する.尿中カテコールアミン(アドレナリン,ノルアドレナリン)とその代謝産物(VMA,メタネフリン,ノルメタネフリン)の増加を示す.画像検査(エコー,CT,MRI)や特異性の高いMIBGシンチグラフィにより片(両)側副腎腫瘍の局在診断を行う.両側褐色細胞腫を合併するほかの遺伝性疾患としてvon Hippel-Lindau病やvon Recklinghaunsen病(神経線維腫1型)との鑑別が必要である.
 副甲状腺機能亢進症は高カルシウム血症,低リン血症,PTH高値を示す.画像検査(エコー,CT,MRI)やTc-MIBIシンチグラフィで局在診断する.Marfan様体型や粘膜神経腫の身体所見は特徴的である.
治療・予後
 甲状腺髄様癌は甲状腺全摘術および所属リンパ節の郭清術を施行する. MEN 2型の病型によって甲状腺髄様癌の悪性度に差がある.MEN 2B型はより若年に発症し,MEN 2A型やFMTCよりも悪性度が強いとされるため,欧米では早期の甲状腺全摘術とより広範な頸部リンパ節郭清術が奨められている. 褐色細胞腫は両側副腎に腫瘍が存在する場合には両側副腎全摘術を行う.術前・中にはα遮断薬を用いて,血圧をコントロールする.一側のみに腫瘍が確認される場合には患側副腎摘出を行い,術後他側副腎の病変が出現しないかの観察をカテコールアミン測定や画像検査にて定期的に行う.褐色細胞腫と甲状腺髄様癌あるいは副甲状腺機能亢進症とを合併した場合,褐色細胞腫の摘出術を優先させる.これは甲状腺や副甲状腺の手術中にカテコールアミン過剰分泌が起こり高血圧クリーゼをきたす危険があるためである.副甲状腺機能亢進症の外科的治療はMEN 1型の場合と同じである.
遺伝子診断
 欧米では,MEN 2B型の家族にはRET遺伝子の変異部位によって,早期に遺伝子検査と予防的甲状腺全摘術の施行を推奨している.これはMEN 2型での遺伝子変異と病型や甲状腺髄様癌の悪性度との相関性を根拠としている.しかしわが国では小児の未発症者(保因者)に対しては,血中カルシトニンの測定と頸部超音波検査を定期的に行い,カルシウム刺激後の血中カルシトニンの上昇や腫瘍が出現してから手術する施設が多い.これは乳児-小児期の手術の危険性と術後生涯にわたり甲状腺ホルモンの補充療法の必要があるからである.今後,わが国でも甲状腺全摘術の時期と長期的生命予後の関連についてのエビデンスが必要である. MEN 2型の遺伝子診断によって本症の診断と家族についての保因者はほぼ確実に同定が可能となった.MEN 2型の保因者と診断された場合,将来出現する可能性のある内分泌臓器病変の有無を定期的検査で行い,早期診断,早期治療が可能である.しかし,MEN 1型と同様,MEN 2型の遺伝子検査についてもガイドラインに沿った患者と家族への十分な説明と同意が必要である.同時に遺伝カウンセリングや個人情報の管理も必要である.[平田結喜緒]
■文献
Brandi ML, Gargel RF, et al: Guideline for diagnosis and therapy of MEN type1 and type2. J Clin Endocrinol Metab, 86: 5658-5671, 2001.
Gargel RF, Marx SJ: Multiple endocrine neoplasia. In: Williams Textbook of Endocrinology(Larsen PR, Kronenberg HM, et al eds),pp1717-1762, WB Saunders, Philadelphia, 2008.
Hoff AO, Gargel RF: Multiple endocrine neoplasia type2. In: Endocrinology(DeGroot LJ, Jameson JL eds),pp3533-3550, Elsevier Saunders, Philadelphia, 2005.
Thakker RN: Multiple endocrine neoplasia type1. In: Endocrinology(DeGroot LJ, Jameson JL eds),pp3509-3531, Elsevier Saunders, Philadelphia, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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