褐色細胞腫(読み)かっしょくさいぼうしゅ(英語表記)Pheochromocytoma

六訂版 家庭医学大全科 「褐色細胞腫」の解説

褐色細胞腫
かっしょくさいぼうしゅ
Pheochromocytoma
(内分泌系とビタミンの病気)

どんな病気か

 副腎(ふくじん)は、外側を取り巻く皮質(ひしつ)と、その内側にある髄質(ずいしつ)に分かれています。褐色細胞腫は、副腎髄質あるいは脊髄(せきずい)に沿った交感神経節(こうかんしんけいせつ)細胞にできる腫瘍(しゅよう)です。腫瘍からはカテコールアミンというホルモンが分泌され、このホルモンの作用でさまざまな症状が現れます。

 大部分良性ですが、時に悪性の場合もあります。良性か悪性かの判断は難しく、慎重に経過を追う必要があります。また、遺伝的にこの病気になりやすい家系もあり、その場合は小児期から定期的な検査が必要になる場合もあります。

原因は何か

 前述のとおり、一部の患者さんに遺伝との関係が認められますが、多くは明らかな原因もなく腫瘍が発生します。

症状の現れ方

 代表的な症状はカテコールアミンが多く分泌されることによる高血圧頭痛、発汗過多、代謝亢進(こうしん)、血糖の上昇です。そのほか、動悸(どうき)、やせ、便秘、胸痛、視力障害などもしばしば起こります。

 高血圧などの症状が常にある患者さんもいますが、半数以上の人はこれらの症状が発作的に現れます。発作は姿勢(腹ばいや前屈など)、食事、排便腹部触診など腫瘍が圧迫されるような状況で誘発されることがあります。まれに、発作のために急激に血圧が上がったり脈が速くなったりして、心不全出血の危険性が高まることもあります。

検査と診断

 症状から褐色細胞腫が疑われれば、血液中および尿中のホルモンを測定します。発作中に血液検査ができる場合は診断に有用ですが、発作が起きていない時は、血液中のカテコールアミン濃度は正常値を示すこともあります。

 このため発作直後の尿中あるいは1日中ためた尿中のカテコールアミンやその関連物質を測定します。腫瘍の部位を明らかにするためには腹部の超音波やCTなども行われますが、MRIや核医学検査(MIBGシンチグラフィ)がしばしば有効です。

 家族歴などから、遺伝的要因が関係した褐色細胞腫が疑われた場合は、遺伝子の検査が望まれる場合があります。遺伝子の検査は倫理的な問題もありますが、その後の検査・治療方針を決めるうえで有意義です。

治療の方法

 根本的な治療は腫瘍を摘出することです。手術の前には、カテコールアミンの作用を阻害する薬(α(アルファ) 受容体拮抗薬など:一般的に降圧薬として使用している薬剤)を投与し、血圧を正常に近づけます。また経過中、症状が強い時も同剤を投与して血圧などをコントロールします。

病気に気づいたらどうする

 発作的な血圧上昇、発汗、動悸、頭痛などがしばしば起こる場合は、内分泌を専門とする病院に受診してください。

崎原 哲


褐色細胞腫
かっしょくさいぼうしゅ
Pheochromocytoma
(循環器の病気)

原因は何か

 褐色細胞腫は、カテコラミンという副腎髄質(ふくじんずいしつ)から分泌されるホルモンが過剰につくられる疾患です。“10%病”と呼ばれるように、両側副腎由来が10%、悪性が10%、副腎外由来が10%、家族内発症が10%を占めます。全高血圧の0.1~0.2%を占めます。発症に男女差はなく、年齢も10~80代まで幅広くみられます。

症状の現れ方

 著しい高血圧、頭痛、発汗過多、代謝亢進、高血糖を特徴とします。褐色細胞腫の3分の2は、普段は無症状ですが発作的に症状が現れる発作型です。

検査と診断

 カテコラミンの過剰産生を血液や尿の検査で証明します。一般に、発見時の腫瘍の径は大きく、CT、MRIやシンチグラフィなどの画像診断が容易です。最近は、画像診断で腫瘍が偶然見つかった(偶発腫瘍)あと、本症と診断される例が増えています。糖尿病高脂血症の合併もよくみられます。

治療の方法

 治療の原則は、外科的に腫瘍を摘出する方法です。

病気に気づいたらどうする

 腫瘍を完全摘出した場合は血圧も正常にもどり、予後は良好です。しかし、放置していて血圧上昇が著しい場合には、高頻度脳卒中(のうそっちゅう)や心不全を来します。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「褐色細胞腫」の意味・わかりやすい解説

褐色細胞腫 (かっしょくさいぼうしゅ)
pheochromocytoma

副腎髄質やまれにはツッカーカンダル器官などの傍神経節のクロム親和性細胞から生じた腫瘍で,カテコールアミンcatecholamines(アドレナリン,ノルアドレナリンなどのアミン類)を産生する。クロム染色により,腫瘍細胞は黄褐色に染まる。ほとんど副腎に発生するが,まれには骨盤腔,縦隔,頸部などにも発生する。90%は良性であるが,10%は悪性で転移がみられる。症状は,特徴的な高血圧のほかに,頭痛,動悸,胸痛,発汗,顔面蒼白,四肢冷感,やせなどがみられる。症状発現のしかたによって,発作型と持続型に分けられる。患者は尿に糖が出ることが多く,ブドウ糖負荷試験では糖尿病型を示し,耐糖能の低下がある。基礎代謝は亢進するが,甲状腺機能は正常である。高血圧による心臓肥大や高度の眼底変化のみられるものもある。カテコールアミン代謝産物である,メタ誘導体(メタアドレナリンmetadrenaline,ノルメタアドレナリンnormetadrenaline)およびバニリルマンデル酸vanillylmandelicacid(VMA)の尿中への排出が増加する。ヒスタミン,レジチン,チラミンの負荷試験での血圧変化が診断上参考になる。褐色細胞腫と甲状腺髄様癌との合併はシップル症候群と呼ばれ,多発性内分泌腺腫症Ⅱ型multiple endocrine adenomatosis type Ⅱと考えられる。治療は外科的手術による。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「褐色細胞腫」の意味・わかりやすい解説

褐色細胞腫
かっしょくさいぼうしゅ

副腎(ふくじん)髄質細胞、ときに交感神経系のクロム親和細胞から発生する腫瘍(しゅよう)。腫瘍細胞からカテコールアミン(アドレナリンやノルアドレナリン)が大量に分泌されるためにいろいろな症状がおこる。おもなものは高血圧と糖尿病である。高血圧は発作的におこる場合と、持続的に血圧が高い場合とがある。発作的な場合は、急に不安感や緊張感に襲われ、動悸(どうき)や頭痛が始まる。脈が速くなったり手足が冷たくなり、ときには耳鳴りや吐き気、嘔吐(おうと)がみられる。また尿糖がしばしば出る。発作は数分から1、2時間、ときには数日続くこともある。しかしこのようなはっきりした発作がなく、いつも血圧が高く、また糖尿病になっている場合もある。診断には血中および尿中のカテコールアミンを測定する。治療は手術によって腫瘍を摘出する。高血圧で諸器官が悪くならないうちに手術をすれば完全に治る。

[高野加寿恵]

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家庭医学館 「褐色細胞腫」の解説

かっしょくさいぼうしゅ【褐色細胞腫 Pheochromocytoma】

[どんな病気か]
 副腎(ふくじん)の髄質(ずいしつ)にできた腫瘍(しゅよう)によって、自律神経(じりつしんけい)にはたらくアドレナリンやノルアドレナリン(まとめてカテコラミンとかカテコールアミンと呼びます)が過剰に分泌(ぶんぴつ)されて、高血圧をおこす病気です。
 若い人が、ひどい高血圧をおこすのは、この病気が原因のことがあります。
 高血圧のほか、顔面の紅潮(こうちょう)、ひどい発汗、動悸(どうき)、頭痛などもおこります。
 これらの症状は、長く続く場合もありますが、ときどき発作的におこる場合もあります。
[検査と診断]
 血液と尿をとって、その中に含まれるカテコラミンの量を調べると、増加しているのがわかります。腫瘍をさがすために、CTスキャン、MRI、血管造影などの画像診断を行ないます。
[治療]
 腫瘍を摘出すれば治ります。手術ができない場合には、血圧を下げる作用のある交感神経遮断薬(しゃだんやく)(α(アルファ)受容体遮断薬)を使用します。

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栄養・生化学辞典 「褐色細胞腫」の解説

褐色細胞腫

 腫瘍の一種.副腎髄質,パラガングリオンなどのクロム親和性組織より生成.良性が多いがカテコールアミンを分泌するため高血圧を起こす場合が多い.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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