大ロシア主義(読み)だいロシアしゅぎ

改訂新版 世界大百科事典 「大ロシア主義」の意味・わかりやすい解説

大ロシア主義 (だいロシアしゅぎ)

ロシア人が他の民族,とりわけロシア帝国ないしはソ連邦ロシア連邦の非ロシア人諸民族に対してとる特権的な立場をさすが,洗練され体系化された思想があるわけではない。大ロシア主義は,ロシア帝国が膨大な陸続きの植民地をもつ帝国として形成されたことからほとんど必然的に生まれてきた。それは統治政策の面ではロシア化政策という形でもっとも明瞭に示された。ロシア化政策には,ロシア人の移民を多数送りこんで,ある地域のロシア的要素を高めていく植民政策やロシア語の強制,あるいは強制的なキリスト教化といったさまざまの面が含まれていた。そしてエカチェリナ2世のように必ずしも大ロシア排外主義的な立場からでなく,文明主義的・進歩主義的な立場からロシア化が推し進められることもあった。

 大ロシア主義に対するもっとも鋭い批判は非ロシア人の側からなされたが,ロシア人自身の側で大ロシア主義の問題をもっとも鋭敏にうけとめたのはレーニンであった。彼は排外主義を帝国主義イデオロギーととらえる立場から,共産党員に対しても大ロシア主義を厳しく批判した。そして彼の晩年におきた〈グルジア問題〉は彼の危惧がけっして杞憂きゆう)ではないことを示していた。1920年代のソ連の民族政策の基調をなしていた民族化政策はレーニンの考え方を受け継ぐものであり,ロシア化と対照的な政策であったが,集団化と大粛清の中でこの政策は否定され放棄された。逆に34年のポクロフスキー歴史学への批判以降は,過去のロシアが賛美されるようになり,第2次世界大戦はこの傾向を決定的なものにした。戦中から戦後にかけて,ロシアによる過去の侵略や植民地支配が〈進歩的〉とされたことや,ユダヤ人に対する迫害にみられるように,大ロシア主義は国家的イデオロギーになった。56年のスターリン批判後はこのような露骨な大ロシア主義は影をひそめたが,多民族国家ソ連・ロシア連邦においては大ロシア主義は底流として常に存在するものと考えなくてはならない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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