杞憂(読み)キユウ

デジタル大辞泉 「杞憂」の意味・読み・例文・類語

き‐ゆう〔‐イウ〕【×杞憂】

中国古代の杞の人が天が崩れ落ちてきはしないかと心配したという、「列子天瑞故事から》心配する必要のないことをあれこれ心配すること。取り越し苦労。杞人の憂え。「杞憂に終わる」
[類語]考え事思案物思い考え心配気疲れ気苦労心痛心労懸念恐れ憂慮取り越し苦労悲観恐れる不安危惧きぐ危懼きく疑懼ぎく胸騒ぎ気がかり心がかり不安心心細い心許こころもとない憂い気遣いわずら怖い危なっかしいおぼつかない頼り無いおののく動揺心騒ぎ煩慮憂惧ゆうぐ憂懼ゆうく憂い事気遣わしい痛心鬼胎ひやひやはらはらどきどきおどおどあぶなあぶな恐る恐るこわごわおっかなびっくりおじおじおずおずびくびくこわがる臆するおびえるびくつくおじるおじける恐怖恐れをなす悪びれる案ずる気が気でないそぞろ足が地につかない気が揉める居ても立ってもいられない矢も楯もたまらない居たたまれない生きた心地もしない気になる気に病む呉牛ごぎゅう月にあえ

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精選版 日本国語大辞典 「杞憂」の意味・読み・例文・類語

き‐ゆう‥イウ【杞憂】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「杞」は中国古代の国名。その国の人が、天のくずれ落ちることを心配して寝食をとらなかったという「列子‐天瑞」の故事から ) 必要のないことをあれこれ心配すること。無用の心配。とりこし苦労。〔漢語便覧(1871)〕
    1. [初出の実例]「先づ第一に此の如き杞憂を抱く方々は」(出典:条約改正論(1889)〈田口卯吉〉)

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普及版 字通 「杞憂」の読み・字形・画数・意味

【杞憂】きゆう(いう)

とりこし苦労。〔列子、天瑞〕杞の國に、人の、天地し、身寄する(な)きを憂へて、寢を廢するり。彼の憂ふるを憂ふるり。困りてきて之れに曉(さと)す。

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故事成語を知る辞典 「杞憂」の解説

杞憂

心配する必要のないことを、あれこれ心配すること。

[使用例] 察するに、世間で好く云うやみつきということがありはすまいかとおおもひなすったのだろう。それは杞憂であった[森鷗外ヰタ・セクスアリス|1909]

[使用例] 余には子種はないものか、との家光の杞憂は一度に雲散霧消し、翌寛永十四年閏三月五日、お振の方は姫君を産み奉ったのであった[松本利昭*春日局|1988]

[由来] 「列子てんずい」に載っている話から。春秋時代の中国でのこと。杞という国に、天地が崩れ落ちるんじゃないかと憂えて、夜も眠れず、食事ものどを通らない人がいました。そこへ、彼のことを心配した友人がやって来て、「天は空気だから落ちて来ないよ」と言います。すると、「だったら、太陽や月や星はどうして落ちないんだい?」。「あれも、空気が輝いているだけなんだ」。「じゃあ、大地の方は?」。「分厚い土の層だから崩れはしないよ」。というわけで、不安で眠れなかった人もすっかり納得して、二人して大喜びしたということです。

[解説] ❶隕石地滑りを知っている私たちからすれば、ちょっと甘い議論。ただ、「列子」の真意は、そこにはありません。この話には続きがあり、そこでは、天地が崩れる可能性を説く人物が登場し、最終的には、崩れるかもしれないし崩れないかもしれない、だから心配してもしかたがない、という結論に達しています。❷現実には、心配する必要のないことなど、なかなか存在しません。とはいえ、希望的観測の上に立って使ったり、後の経過を踏まえて「杞憂に終わった」というふうに用いることができます。

〔異形〕杞人の憂い/杞人、天を憂う。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「杞憂」の意味・わかりやすい解説

杞憂
きゆう

無用の心配、取り越し苦労をいう。中国、周の時代の杞の国(現河南(かなん/ホーナン)省開封(かいほう/カイフォン)のあたり)に、いまにも天が崩れ落ちて、身の置きどころがなくなると心配し、寝食を忘れて憂えた人があり、この人を心配して、天が落ちてくることなどはないと、いろいろ説明して、ようやく納得させた人がいた、と伝える『列子』「天瑞篇(てんずいへん)」の故事による。「杞人の憂」ともいう。

[田所義行]

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