大腿四頭筋
乳幼児期にふとももへ抗菌薬や解熱剤を筋肉注射したことが原因でこの病気を引き起こして大きな社会問題となりましたが、まれに、先天性と思われる例もあります。
この病気は大腿直筋が障害される直筋型、大腿直筋と外側広筋が障害される混合型、中間広筋と外側広筋が障害される広筋型の3つのタイプに分けられます。
タイプによって症状に違いがあり、直筋型では尻上がり現象がみられます。尻上がり現象とは、うつ伏せに寝て
また、直筋型、混合型では脚を外側へ振り回しながら歩くぶんまわし歩行や出っ尻歩行、広筋型では膝を突っ張って歩く棒足歩行といった歩き方の異常がみられる場合があります。
診断はふとももへ筋肉注射を受けたことがあって、そこに皮膚のくぼみや硬いしこりがあり、それに加えて前記のような症状があれば容易ですが、関節の状態を診るためにX線検査を行ったり、筋肉の状態を把握するためにMRI検査を行う場合があります。
治療は、重症例に対して
湏藤 啓広
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
先天的あるいは後天的な原因によって大腿四頭筋(大腿直筋、中間広筋、外側広筋、内側広筋)が伸展性を失い、膝(しつ)関節の可動性が制限または消失した状態をいい、大腿四頭筋短縮症ともよばれる。5、6歳の小児にみられ、そのほとんどが乳幼児期における大腿部への筋肉注射による後天的なものである。かつて集団的に多発して社会問題にまでなったことがあるが、筋肉注射が避けられるようになり、現在はまれなものとなった。しかし、注射の回数や薬液との因果関係については不明の点が多い。大腿直筋、内・外側広筋および中間広筋との間に癒着がみられ、主病変である大腿直筋では広範囲の瘢痕(はんこん)が認められる。病型は直筋型、広筋型、混合型に分けられる。
症状は瘢痕化の程度や範囲により異なるが、主症状は膝関節の屈曲制限である。大腿前面が陥凹し、股(こ)関節を伸展して膝関節を屈曲すると大腿前面に索状物を触れるほか、正座ができず、下肢を外に振り出すようにして歩いたり、殿部を突き出して歩くなどの歩行障害がみられる。特徴的な症状は尻(しり)上がり現象である。すなわち、伏臥(ふくが)位で股関節を伸ばしたまま膝関節を屈曲させていくと、ある角度以上曲がらなくなり、さらに曲げると股関節が屈曲して尻が上がってくる。
軽症例に対しては膝関節の機能訓練や歩き方をはじめ、日常生活における動作の改善を図るが、尻上がり現象が膝関節の屈曲30度前後でおこるような場合には、手術が必要となる。注射の乱用を避けることが予防となる。
なお、注射による筋拘縮としては、このほか三角筋拘縮や殿筋拘縮がある。
[永井 隆]
大腿四頭筋短縮症ともいう。大腿四頭筋の筋組織が瘢痕(はんこん)化し,機能障害を起こすもので,5~6歳の成長期の小児にみられる。この疾患は1946年にすでに報告されていたが,当時は先天的なものと考えられていた。しかし,70年代に入って各地で多発し,社会問題となった。そこで,日本医師会は74年,検討委員会を設け,その原因として,先天的なものと当該部位への皮下・筋肉注射によるものとがあることを明らかにした。症状は瘢痕化の程度や範囲によって異なるが,著しい例では,歩行に際して,悪いほうの肢が外旋し,走るとさらに著しくなる。また正座ができなくなる。膝関節に屈曲制限がみられ,腹臥位にして膝関節を曲げてやると,ある角度以上曲がらなくなり,さらに曲げると尻が上がる。これを尻上がり現象といい,この疾患の特徴とされる。治療としては症状の程度に応じて手術が行われる。注射を乱用しないことがたいせつである。
執筆者:杉岡 洋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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