観光、業務、その他の目的をもって個人または団体で外国へ旅行すること。国内旅行と異なり、出入国に際し一定の手続を必要とする。国際収支上は貿易外収支(インビジブル・トレードinvisible trade)に含まれ、輸出に相当する。第二次世界大戦前の海外旅行は「洋行」とよばれ、外交官、留学生、芸術家などごく一部の階層に限られ、一般の人々の海外旅行はまれであった。第二次世界大戦後は、民間航空網の発達に伴いしだいに一般化したが、1964年(昭和39)までは「外国為替(かわせ)及び外国貿易管理法」(現、外国為替及び外国貿易法)の規定による制限があり、民間人の海外旅行には国益貢献の大義名分が必要で、輸出振興のための業務渡航や文化交流等に限定されていた。しかし、1964年4月1日からIMF(国際通貨基金)8条国への移行で外貨の海外持ち出しが原則的に自由化されたのに伴い、海外観光旅行も同時に自由化されることになった。自由化後は、航空会社や旅行業者によるパッケージ・ツアーが続々と登場し、ジャンボ機の日本就航(1970)とも相まって海外旅行がますます身近なものとなり、日本人の海外旅行者数は急増した。とくに1969年から1973年の間は、日本経済の高度成長を背景に、格安団体航空運賃の導入、日本円の対ドル交換率の上昇、観光目的に対する数次往復旅券の交付開始など海外旅行促進に決定的な影響を及ぼす好条件が相次いだ結果、わずか5年間で海外旅行者数が50万人から230万人と約5倍、年平均50%近い伸びをみせ、海外旅行ブームのさきがけとなった。その後もほぼ順調に伸びを続け、1990年(平成2)には年間1000万人の大台を超え、2019年(令和1)時点では2008万人である。旅行目的もほぼ全体の70%以上が観光目的であり、海外観光旅行が日本人の生活の一部として定着しつつあることを示している。
[籠手田恵夫]
海外旅行は、広義には、帰国を前提としない永住、外国人との同居も含むが、通常は観光渡航と業務渡航に大別される。観光渡航は、旅行業者が主催するパッケージ・ツアーが便利だが、個人でも一部の国を除いてどこにでも旅行できる。業務渡航は、外交、政府官公庁の公用、輸出入関係の業務打合せ、役務提供、国際会議や行事への参加、学術研究、留学、視察、取材、海外工事、競技、興行など。
[籠手田恵夫]
海外旅行をするには、旅券(パスポート)とよばれる公文書が必要である。また、訪問する国によっては査証(ビザ)とよばれる入国許可証や予防接種証明書が必要な場合もある。さらに、必須(ひっす)条件ではないが、外貨の購入、海外旅行保険契約などの手続も欠かせない。このような手続は個人でもできるが、旅行業者に依頼すれば、旅行手配と一緒に、一定の取扱料金で渡航手続事務の大部分を代行してくれる。
(1)旅券passport 外国への渡航者に対して外務大臣が発給する一種の国籍証明書。政府が渡航先の国々の関係諸機関に、渡航者が支障なく安全に旅行できるよう必要な保護援助を要請する公文書である。旅券は、国の用務のため外国に渡航するための公用旅券とそれ以外の一般旅券に区分され、一般旅券には有効期間が5年の数次往復用と、同じく10年の2種類がある。通常は「5年旅券」か「10年旅券」のいずれかを選択して申請することができるが、18歳未満の者は「5年旅券」に限定される。
旅券の申請、受領は、渡航者自身が現住地の都道府県の所轄窓口へ出頭して行うのが原則であるが、申請のみは一定の条件のもとに代理申請も認められる。申請には、所定の旅券発給申請書1通、戸籍謄本または抄本1通、申請者の写真1枚、住民票1通、身元確認のための書類(書類により一つまたは二つ)を必要とする。なお、住民票については2003年(平成15)4月より住民基本台帳ネットワークシステムを利用する場合は、提出を省略できる。
旅券は、旅行中日本国民としての身分を保証する唯一の証明書であり、旅券なしでは第三国への移動はもとより、原則として日本への帰国もできない。このため旅行中はほかにもまして厳重な保管が必要である。万一紛失した場合は、ただちに現地警察および最寄りの在外公館へ届け、再発給申請手続をとらねばならないが、再発給を受けるまでには相当の時日がかかることを覚悟する必要がある。万一に備えて旅券番号と発行年月日はかならず別に控えておくか、本国の親戚知人に照会できるようにしておくことが望ましい。
(2)査証visa 渡航者の入国資格を認める一種の入国許可証。通例、渡航先国の在日公館に旅券を提示して裏書証明を受ける。査証の種類や申請方法は国の事情や入国目的により異なるので、そのつど在日公館に問い合わせる必要がある。なお、国際間の旅行自由化を促進する目的で、日本は2021年6月時点で68の国・地域との間に査証相互免除協定を結んでいるほか、一部の国では日本人観光客誘致の目的で一方的な査証免除の扱いをする国もあり、それらの国には一定の範囲内なら査証なしで入国できる。
(3)予防接種vaccination 2019年時点で、WHO(世界保健機関)が定めた国際保健規則により要求される予防接種は黄熱病のみであるが、国によってはその国の国内衛生規定によってコレラ等の予防接種を要求もしくは歓奨している場合がある。予防接種を必要とする地域は各地の検疫所もしくは日本検疫衛生協会で知ることができ、また予防接種も実施している。該当の地域へ渡航する場合もしくは経由する場合は接種済みを証明するWHO制定の国際予防接種証明書(通称イエローカード)を携帯しなければならない。
(4)外貨の購入 海外旅行に必要な外貨の購入については、過去国際収支上の理由で上限額が設けられたこともあるが、現在は銀行もしくは両替商(主要旅行業者は両替商の認可をもっている)で無制限に購入できる。外貨の種類としては現金と旅行小切手(トラベラーズ・チェック、T/C(ティーシー)と略称されることが多い)に大別されるが、旅行先での盗難、紛失事故に備えて、チップ程度の現金のほかは旅行小切手を携帯したほうがよい。その通用範囲はきわめて広く、ほとんどの場合、現金同様に買い物やホテル、レストラン、交通機関の支払いに利用できる。万一紛失したり盗難にあっても、小切手の種類、番号、事故の状況を最寄りの発行銀行支店へ連絡すれば、短時日の間に相当額の払戻しを受けることができる。また、クレジットカードが使用できる国や範囲が広がったこともあり、その利便性から利用者が増え、海外旅行に際しては、目的、行き先に応じ、現金、T/C、クレジットカードを上手に使い分ける人が多い。
[籠手田恵夫]
旅券、査証、予防接種、外貨購入の各手続が完了し、乗り物、宿泊などの予約や保険の申込みなどがいっさい終わると、残された手続は、空・海港での出国手続と帰国時の入国手続である。出入国手続は、税関Customs、出入国管理Immigration、検疫Quarantineの三つの手続に大別され、通常それぞれの英語の頭文字をとってCIQとよばれる。各手続の業務内容は出国と入国によって異なるが、各国とも出国よりも入国手続のほうが厳しい。出入国手続のなかで渡航者がもっとも頭を悩ますのは税関で、禁制品、課税対象品などの検査のため、携帯している荷物全部について内容を調べられるのが原則である。身の回り品は通常課税されないが、たばこ、酒類、土産(みやげ)品などは、国により免税基準が定められ、この基準を超えている場合は税率表に基づいて税金を徴収される。
[籠手田恵夫]
日本人の海外旅行者の主要訪問先としては、アジア、北アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアの順に多く、国・地域別にはアメリカ、中国、韓国などが多くなっている。また、日本人海外旅行者の特徴として、40歳代男性と20歳代女性の比率が高いことがあげられるが、最近は高年齢層の海外旅行者数の伸びが著しい。都道府県別の、人口に対する海外旅行者数の比率(出国率)は、2019年時点で最高の東京の30.1%から、最低の青森の3.5%まで地域により相当の格差がある。季節的には、8月の出国者数が最高で、5月が最低となっているが、以前に比べると月別の平均化が進んでいる。日本人海外旅行者の増大に伴い、海外での事故や盗難等の被害にあう件数が増加しているが、その原因の一つとして日本人が自国の安全に慣れすぎている結果、所持品の保管等に無防備であることがあげられる。
[籠手田恵夫]
日本を訪れる外国人旅行者は、従来アメリカ人を筆頭として西欧人の比重が大きかったが、台湾、韓国、香港(ホンコン)などの近隣諸国・地域からの入国者が急激に増え、2019年時点で、年間3188万人の外国人旅行者のうち80%以上がアジアからの訪問者である。
[籠手田恵夫]
『日本交通公社出版事業局編・刊『海外旅行術』(1979)』▽『アルク編・刊『海外旅行事典』(1981)』▽『喜田英屋『海外旅行の出入国手続き』(1999・ストリーム)』
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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