社会統制の一様式で、集団的な規制力や暴力的手段によらず、情報を利用して多数の人々の態度や行動を特定の方向に誘導することをいう。今日の大衆デモクラシーのもとでは、社会的利害にかかわる問題に対しては階級闘争などの激化によって対立が顕著になるとともに、他方で社会の拡大と分化による個人生活の相対的完結性は崩壊しつつある。そうしたなかで、大衆は自己をつなぎ止める安定した生活の目標を喪失し、著しく情緒化する。他方、政治権力の集中化と独占化がいっそう進展することにより、大衆は政治への距離感と無力感を抱くようになり、しだいに政治的無関心へと逃避する。こうして、政治の主役として登場したはずの大衆は、政治的諸決定を事後に知らされる政治的客体にすぎなくなる。権力エリートによる知識と情報の独占化は、いっそう効率的に、大衆を「メディア市場」の受動的存在に変えることを技術的に可能ならしめる。その結果、大衆操作は大衆デモクラシーのもとにおける支配的な政治技術となり、権力エリートは、主としてマス・メディアを媒介とするシンボル操作を通じて大衆の非合理的感情を巧みに操縦し、大衆の「強制なき同調」あるいは「同調による支配」を獲得しようと努めるのである。
C・W・ミルズは、こうしたことを次のように述べている。「操作とは内密のあるいは非人格的な権力の行使である。そして、それによって影響を受ける側の人間は自分のうえに何が加えられているかを明示することはできないが、それにもかかわらず彼は他人の意志に服従させられているのである」。このような操作は、今日の支配的な統制様式として一般化し、不可視的な権力行使であるだけに、きわめて巧妙な大衆への操作といえる。こうした操作の技術は政治権力によって行われるのが通例であるが、さまざまな組織における経営・管理技術と、マス・コミュニケーションのレベルにおけるシンボル操作の技術を含んで、商業的宣伝にも大衆操作が日常化しつつある。これらは、いずれも自律的な参加を行わない大衆を対象としているため、服従者の深層心理に入り込み、彼らの潜在的にある情緒的・非合理的エネルギーを刺激して、それを公的な社会過程にまで投射させようとする。その結果、大衆の情緒による一体化が先行することから、合意による支配は形骸(けいがい)化するため、政治的体制のファシズム化を助長する契機をはらんでもいる。
[林 茂樹]
『K・マンハイム著、池田秀雄訳『自由・権力・民主的計画』(1971・未来社)』▽『C・W・ミルズ著、杉政孝訳『ホワイト・カラー』(1957・東京創元社)』
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…〈贖罪のヤギ〉などと訳される。古代ユダヤには白いヤギに人間の罪や苦難を背負わせて荒野に放す習慣(《レビ記》16章)があったが,ここから転じて他のものの責任の身代りとして,社会から迫害,圧迫される個人や社会層を指す。ナチズムにおけるユダヤ人や,スターリン主義下のトロツキスト,クラーク,日本では関東大震災における朝鮮人等が代表例である。これらの場合は,大きな政治的‐社会的変動のなかで従来の社会制度がうまく機能していないため,人々が不安や挫折感を有している状況において,支配層が人々の不満や憎悪のはけ口を,他の,本来は無関係な対象に投射し,攻撃するように操作する。…
※「大衆操作」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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