1943年から44年にかけてナチ占領下のフランスでつくられた3時間15分の大作映画。撮影は非占領区の南フランスのニースの撮影所に,19世紀半ばのパリの街並みを復元したオープンセットを建てて行われた(セット・デザインはアンドレ・バルサックとユダヤ人であったために名を隠したアレクサンドル・トローネル)。《おかしなドラマ》(1937),《霧の波止場》(1938),《日は昇る》(1939),《悪魔が夜来る》(1942)に次ぐジャック・プレベール脚本,マルセル・カルネ監督のコンビの代表作かつ最高傑作であり(このコンビの作品によって代表される当時のフランス映画が〈詩的リアリズム〉の名で呼ばれた),おそらく世界中でもっともよく知られたフランス映画の名作である。
第1部〈犯罪大通り〉,第2部〈白い男〉という2部構成で,1840年代のパリのブールバール・デュ・タンプル(〈犯罪大通り〉の名で呼ばれた)を主要な舞台に,パントマイムを舞台芸術にまで高めた偉大な創始者として知られるJ.G.ドビュロー,ロマン派演劇の名優F.ルメートル,悪名高き犯罪詩人ピエール・フランソア・ラスネールといった実在の人物が,娼婦ガランスやドビュローが活躍したフュナンビュール座の座長の娘ナタリーといった虚構の人物と入りまじって,まさに虚々実々の恋愛絵巻をくりひろげる波乱万丈の物語である。ガランスにアルレッティ,ドビュローにジャン・ルイ・バロー,ルメートルにピェール・ブラッスール,ラスネールにマルセル・エラン,座長の娘ナタリーにマリア・カザレスという完ぺきな配役と,彼らを取り巻く俳優陣(伯爵を演ずるルイ・サルー,〈乞食〉のガストン・モド,下宿屋のおかみジャーヌ・マルカン等々)のみごとな演技もあって,フランス映画の不朽の名作となっている。
執筆者:広岡 勉
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フランス映画。1945年作品。日本公開は52年(昭和27)。マルセル・カルネ監督の代表作。舞台俳優ジャン・ルイ・バローの発案で19世紀のパントマイム役者バチスト・ドビュローの映画を計画、これを中心に、殺人狂の文学者ラスネル、舞台の名優フレデリック・ルメートルなど当時の実在人物を登場させ、さらに見世物女芸人ガランスやモンレー伯爵、バチストの妻となるナタリーなど架空の人物を絡ませている。脚本はジャック・プレベールで、19世紀パリの盛り場を舞台に性格の鮮やかな人物を登場させ、第一部「犯罪大通り」、第二部「白い男」の2部よりなる3時間15分の壮大な群像ドラマ。撮影は第二次世界大戦中に南フランスで開始され、ナチスの干渉、撮影所の変更、俳優の交代など多くの困難を克服し、戦後ようやく完成、当時空前の大作として大きな反響をよんだ。バローのパントマイムも名演技だが、ピエール・ブラッスール、アルレッティ、マリア・カザレスら多彩な演技陣がこの大作を飾った。
[登川直樹]
『J・プレヴェール著、山田宏一訳『天井桟敷の人々』(1981・新書館)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…彼の芸は,後に彼の伝記を書いた文芸評論家・小説家のジャナンJules‐Gabriel Janin(1804‐74)の熱狂的支持の影響もあって,当時の多くの文学者をフュナンビュール座の後援者とさせ,C.ノディエやシャンフルーリなどが台本を提供するほどになった。M.カルネの映画《天井桟敷の人々》に描かれたJ.L.バロー扮するバティストの役は,当時のフュナンビュール座におけるドビュローの人気を忠実に伝えている。彼が創始した近代的なパントマイム芸は息子のシャルルに伝わり,20世紀のM.マルソーにいたるまで一つの芸術ジャンルを形成している。…
…ドビュローのパントマイムも,初期は他愛ないドタバタであったが,28年,C.ノディエが彼のために書いた《黄金の夢Le songe d’or》の成功によって,一躍T.ゴーティエ,J.G.ジャナンなど,知識人たちの注目を集めるようになり,ピエロは文学者など知識人の愛好の対象となった。映画《天井桟敷の人々》の中ではJ.L.バローが演じたドビュローの代表作《古着屋》(1842)は,舞台で涙を流す新しいピエロ像を生み,〈悲しきピエロ〉のイメージを定着させた。そしてこのイメージはT.deバンビルやJ.ラフォルグなどの詩《月光のピエロ》を通じて,〈涙を流すピエロ〉という新しい神話を生み出していった。…
…特に市の芝居の隆盛の結果として,1759年以降,パリ北東の周縁部に当たるタンプル大通りに常設小屋が急増し,市の芝居で当たっていた〈オペラ・コミック〉をはじめとする新旧さまざまな舞台表現の場となり,特に大革命の〈人権宣言〉によって劇場開設権が万人のものと認められて以来(もちろん,まったくそのとおりにいったわけではなかったが),都市の周縁部の〈劇場街〉が,修道院の市のごとき〈宗規的時空〉からまったく自由に,かつ公式の劇場のような国庫補助も受けずに出現し隆盛を誇ったことは,フランス演劇史上の特筆すべき大事件であった。映画《天井桟敷の人々》(1944)は,のちの19世紀30年代のタンプル大通りをみごとに再現したが,この芝居街は第二帝政下,1860年代にオスマン男爵の都市計画で取り壊される。しかしその後にできた現在のグラン・ブールバールが,中心を西に移しつつも劇場街として隆盛をみるという劇場地図は,20世紀の前半までほとんど変わらなかった。…
※「天井桟敷の人々」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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