生物の進化・系統学において、異なった生物群の間の系統や類縁関係を示す証拠となる生物(多くはその化石)の存在が予測されるのに、それが発見されていない場合に、その欠落(間隙(かんげき))をさしていう。失われた環、ミッシングリンクmissing linkともいう。現生種だけではもちろんのこと、絶滅した化石種を含めた既知の生物種をどのように配列、分類しても、その系図は完全には連ならない。さまざまな間隙が残る。そのような間隙を埋める中間的生物「失われた鎖」をつねに想定するのは、系統・進化は漸次的な形態変化を伴うとのダーウィン以来の考え方に依拠することになっている。それに対して、近年では、断続的変化の生じた可能性も論議されており(たとえば、著しい形態変化を伴う大突然変異など)、かならずしも「失われた鎖」の存在を前提とせずに進化を説明する試みもなされている。
新しく発見された生物は、その系統的位置づけを得た時点で、それぞれに「失われた鎖」の発見であったともいえるが、とりわけ、人類(ホモ・サピエンス)と類人猿の祖先をつなぐアウストラロピテクス類、鳥類が爬虫(はちゅう)類(恐竜)に由来することを示す始祖鳥(アルケオプテリクス)、絶滅した内鼻孔(ないびこう)類(魚類)と陸生脊椎(せきつい)動物(両生類)をつなぐ迷歯類のイクチオステガなどは、脊椎動物の系統を具体的に裏づける「失われた鎖」の重要な発見例とされる。一方、古生代カンブリア紀にすでに存在が確認されている無脊椎動物の多くの門をつなぐ決定的化石はなに一つ発見されていない。生物の系統・進化の解明には、今後も新しい化石の発見に期待するところは依然として大きいが、進化過程についての理論的説明の発展にゆだねられている面も少なくない。
[遠藤 彰]
敵を欺くために、自分の身や味方を苦しめてまで行うはかりごと。また、苦しまぎれに考え出した手立て。苦肉の謀はかりごと。「苦肉の策を講じる」...