内科学 第10版 「好酸球性肺炎」の解説
好酸球性肺炎(アレルギー・免疫性疾患)
(1)慢性好酸球性肺炎(chronic eosinophilic pneumonia:CEP)
定義・概念
1969年にCarringtonらによって提唱された疾患概念であり,亜急性に発症する原因不明の肺の慢性好酸球性炎症.ステロイド治療に速やかに反応するが,再発することが多い.
疫学
男女比1:2で,30~40歳代の女性に多い.約半数に喘息やアレルギー疾患の既往があり,多くは非喫煙者である.
病理
肺胞への多数の好酸球浸潤を認めるが,線維化はまれで肺胞構造の破壊はない.肺胞腔内にフィブリン様浸出物と器質化,脱顆粒した好酸球を認め,間質には好酸球性微小膿瘍や血管炎も散見される.
臨床症状
1)自覚症状:
咳,痰,呼吸困難,喘鳴,発熱,胸痛,全身倦怠感,食欲不振,体重減少.
2)他覚症状:
約1/3の症例では胸部聴診でwheezeやcrackleを聴取.
検査成績
1)血液検査:
末梢血白血球および好酸球数(6%以上)の増加,CRP上昇,赤沈亢進,血清総IgE値上昇.
2)気管支肺胞洗浄(BAL):
好酸球は多くの症例で25%を超え,総細胞数,リンパ球の増加を伴う.CD4/CD8比は2以上で,非特異性間質性肺炎(NSIP)や特発性器質化肺炎(COP)との鑑別に有用である.
3)肺機能検査:
閉塞性換気障害を呈する場合と,拘束性障害を呈する場合がある.間質の炎症が強い場合には拡散障害を伴う.
4)胸部単純X線写真:
非区域性の浸潤影が肺野末梢の外側優位に分布する(photographic negative of pulmonary edema).陰影は移動性である.
5)胸部CT:
陰影は上葉に比較的多く,両側末梢性に浸潤影を認める.ときに小葉間隔壁の肥厚や胸膜直下の線状帯状陰影,区域性無期肺,胸水,縦郭リンパ節腫脹を認める.
診断
特徴的な画像所見と末梢血好酸球増加により本症を疑い,他臓器障害がなく肺に好酸球浸潤が認められれば本症と診断できる.
鑑別診断
表7-4-5に示す疾患が鑑別の対象となる.
経過・予後・治療
軽症例では自然軽快することもあるが,多くの場合経口ステロイド投与が必要となる.初期投与量0.5 mg/kg/日で開始し,2週間ごとに減量,6カ月程度で中止する.半数以上の症例は2週間以内で胸部異常陰影が消失するが,ステロイドの減量に伴い50%以上の症例で再発する.その場合には経口ステロイドの長期維持量での投与が必要となる.
(2)急性好酸球性肺炎(acute eosinophilic pneumonia:AEP)
定義・概念
1989年にAllenらによって提唱された疾患概念で急性に発症し,強い低酸素血症を特徴とする肺の急性好酸球性炎症.喘息やアレルギー疾患の既往がない,喫煙に関連して発症する若年者の報告が多い,再発はまれ,などの特徴があり慢性好酸球性肺炎とは異なる病態である.
病理
肺胞隔壁および肺胞腔内への好酸球の浸潤が基本であり,細気管支周囲や小葉間間質,胸膜にまで好酸球の浸潤が及ぶことがある.
臨床症状
1)自覚症状:
咳,呼吸困難,発熱が突然に出現する.急速に呼吸不全に進行し,成人呼吸促迫症候群との鑑別を必要とする症例も存在する.
2)他覚症状:
頻脈,頻呼吸,捻髪音.
検査成績
1)血液検査:
発症初期には末梢血好酸球増加は認めない.CRP上昇や低酸素血症(しばしばPaO2は60 mmHg以下となる)を認める.
2)気管支肺胞洗浄(BAL):
好酸球数は25%以上に上昇し,CD4/CD8比は1以上のことが多い.超急性期には好中球の増加を認めることがある.
3)胸部X線写真:
両側びまん性浸潤影,Kerley B lineやA line,胸水を認める.
4)胸部CT:
すりガラス様陰影,浸潤影,粒状影,小葉間隔壁の肥厚,縦郭・肺門リンパ節腫脹,両側胸水貯留などの所見を認める.
診断
急性発症(1週間以内),発熱,胸部写真で両側の浸潤影,著明な低酸素血症,肺における好酸球浸潤を認め,薬剤などほかの明らかな原因が認められない場合に本症と診断する.
鑑別診断
好酸球が増加する急性発症の疾患(表7-4-5).
経過・予後・治療
ステロイドが著効し予後良好な疾患であるが,急速に呼吸不全に移行する症例ではステロイド大量療法を必要とする.ステロイドは4週間程度の漸減で中止可能で,再発することはまれである.喫煙が誘因となっている場合には禁煙指導が重要である.
(3)アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis:ABPA)
定義・概念
肺内に腐生した真菌に対するアレルギー反応による病態であり,喘息患者に発症することが多い.難治性喘息病態の一因である.
原因・病因
原因はおもにAspergillus fumigatusによるが,ほかの真菌(A. niger,A. oryzae,A. flavus,A. terres,Candida albicans,Penicillium)が原因のこともあり,本症をアレルギー性気管支肺真菌症(allergic bronchopulmonary mycosis:ABPM)とよぶこともある.
病理
気管支粘膜や肺実質に好酸球の浸潤を認める.ときに気腔内の好酸球性粘液栓に分枝状の真菌を認めることもある.肺組織内に真菌の浸潤が認められないのが通常のアスペルギルス感染症とは異なる点である.
臨床症状
1)自覚症状:
ABPA発症前から喘息やほかのアレルギー疾患を有することが多い.喘息発作に加えて発熱や全身倦怠感,夜間の発汗,血痰がみられることもある.
2)他覚症状:
wheeze.進行例では捻髪音を聴取.
検査成績
1)血液検査:
赤沈促進,CRP上昇,白血球増加.末梢血好酸球も500~1000/μL以上に増加する.
2)喀痰検査:
茶褐色の粘液栓子を認め,約60%の症例で真菌培養が陽性となる.
3)胸部X線写真:
移動性の浸潤影や気管支壁肥厚によるトラムライン(tramline),中枢気管支の拡張と粘液栓子によるgloved finger shadowを認める.
4)胸部CT:
浸潤影や中枢性気管支拡張像を認める.
5)呼吸機能検査:
通常の喘息と同様に閉塞性換気障害や気道過敏性を認める.線維化が進行すると,拘束性換気障害や拡散障害が認められる.
6)アレルゲン検査:
アスペルギルス抗原の皮内注射後20分で発赤・膨隆の即時型反応,さらに3~5時間後に再び紅斑・腫脹のArthus反応を認める.血清学的にはアスペルギルスに対する特異的IgE抗体とIgG抗体(沈降抗体)が認められる.
診断
喘息症状,反復する胸部X線での異常陰影,末梢血好酸球増加を呈する患者でABPAを疑う.古典的にはRosenbergの診断基準がある(表7-4-6).
鑑別診断
ABPA以外の好酸球性肺炎をきたす疾患が鑑別となる(表7-4-5).アスペルギルスによる肺感染症である慢性肺アスペルギルス症との鑑別も必要である.
経過・予後
ABPAは早期に発見し適切に治療されれば予後は比較的良好である.再燃を繰り返すと非可逆性の線維化や囊胞性変化に至ることがある.真菌に対する特異的IgE抗体が陽性の難治性喘息患者では,ABPAを念頭に置く必要がある.
治療
臨床症状と胸部X線所見の改善を指標として,0.5 mg/kg/日のプレドニゾロンで治療を開始する.通常2週間ほどで胸部X線での異常陰影は軽快する.再発を繰り返し長期に経口ステロイド投与が必要となる症例ではアスペルギルスの持続的発育を阻止する目的で抗真菌薬が併用される.粘液栓に対して気管支鏡による洗浄除去も有効である.[檜澤伸之]
■文献
Allen JN, et al: Acute eosinophilic pneumonia as a reversible cause of non-infectious respiratory failure. N Engl J Med, 321: 569-574, 1989.
Carrington C, et al: Chronic eosinophilic pneumonia. N Engl J Med, 280: 787-798, 1969.
Rosenberg M, et al: Clinical and immunologic criteria for the diagnosis of allergic bronchopulmonary aspergillosis. Ann Intern Med, 86(4): 405-414, 1977.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報