むき‐はい【無気肺】
- 〘 名詞 〙 気管支が閉塞された結果、肺の一部の中に含まれる空気が吸収されてなくなった状態。気管支癌、気管支結核などで起こる。呼吸困難、心搏急速となる。〔新しい医学への道(1964)〕
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無気肺(呼吸器系の疾患)
定義・概念
無気肺は英語でatelectasisとよぶが,atelesはギリシャ語でincomplete,ektasisはstretchingの意味である.肺胞内の空気が減少したことによって肺容積が減少することをいう.無気肺と肺虚脱(collapse of lung)はほぼ同意語で使用されるが,虚脱は完全な無気肺に対して使用される.
分類・原因・発症機序
無気肺は発症機序によって4つに分類される.
1)吸収性無気肺(resorption atelectasis):
気管支閉塞によって末梢気道および肺胞の含気が減少することによって生じる最も多い無気肺である.閉塞性無気肺(obstructive atelectasis)ともいう.閉塞部位によって全肺,肺葉性,区域性となるが,区域気管支より末梢には肺胞間にKohn孔などの気道側副路が存在しているため無気肺は生じにくい.閉塞の原因として粘液栓,異物,悪性腫瘍(肺癌,特に扁平上皮癌),良性腫瘍,気管支結核,気管支周囲の腫脹したリンパ節,心拡大などがある.肺癌のように時間をかけて肺の虚脱が進行する場合は粘液栓や炎症細胞,浸出液,線維化によって完全な虚脱に至らない.これが閉塞性肺炎(obstructive pneumonitis)である.
2)弛緩性無気肺(relaxation atelectasis):
胸水,気胸,肺腫瘍,ブラなど胸腔内の占拠性病変に接する肺が圧迫され容積が減少することによって生じる.圧迫性無気肺(compression atelectasis),受動性無気肺(passive atelectasis)ともいう.
荷重部無気肺(gravity dependent atelectasis)は,境界不明瞭な濃度上昇(dependent opacity)または胸膜直下の線状影(subpleural line),板状無気肺として認める.喫煙者,肥満者に認めやすく,手術中後の呼吸不全の原因ともなる.荷重部の肺胞は小さく,表面活性物質の障害などが加わり肺胞虚脱が生じる.仰臥位と腹臥位を比較することで肺実質病変と鑑別が可能である.
円形無気肺(round atelectasis,rounded atelectasis, folded lung)は,局所的な胸膜肥厚を伴い胸壁直下に末梢性の腫瘤影を呈する.血管,気管支の円弧状の集束(comet tail sign)など構造のねじれが認められる.胸水消失にもかかわらず肺の虚脱が残存したために生じることが多い.アスベスト暴露,感染性の胸水,うっ血性心不全,肺梗塞,悪性疾患,心臓手術後などで認められる.多くは数年間にわたり変化がない.
3)癒着性無気肺(adhesive atelectasis):
サーファクタント(界面活性物質)は維持表面張力を低く抑え,肺のコンプライアンスを増加させ虚脱を防いでいるため,その不足や不活性化によって肺胞の虚脱が生じる.新生児の呼吸促迫症候群(IRDS),急性呼吸促迫症候群(ARDS),急性放射性肺炎,肺血栓塞栓症,肺炎などにみられる.
4)瘢痕性無気肺(cicatrization atelectasis):
肺実質の線維化と破壊による限局性またはびまん性の容積減少をいう.慢性感染症によるものが典型的であり,肉芽腫性疾患や陳旧性肺結核の内部の気管支は,周囲の線維化によって拡張しており,牽引性気管支拡張(traction bronchiectasis)とよばれる.縦隔や肺門の患側への偏位,周囲の肺の代償性過膨張が認められる.
臨床症状・検査成績
臨床所見は,原因疾患,およびそれらの病期によって異なる.主訴は,発熱,咳,血痰,気道狭窄による呼吸困難,喘鳴などがある.身体所見としては,片肺の無気肺であれば呼吸音の減弱と打診にて濁音を認める.肺葉性の無気肺ではほかの肺葉が代償性に膨張するため呼吸音の減弱は認めにくい.
診断
胸部X線写真とCTによって診断する.直接所見は,気管支や肺胞内の含気の減少そのものによる所見であり,間接所見は含気の減少以外の変化である(表7-7-1).各肺葉の無気肺には特徴がある.上葉の無気肺は左右で異なり,下葉の無気肺は左右同じパターンである(図7-7-1).片肺全部の無気肺は主気管支の完全閉塞が原因であることが多い.健常肺は過膨張となり縦隔全体が患側へ偏位する(図7-7-2).
1)右上葉の無気肺:
正面および側面像における小葉間裂(minor fissure)と側面像における大葉間裂(major fissure)の上葉下葉間裂が拳上する.上葉の無気肺が生じると,縦隔側横隔膜面の最上点付近より上方へ伸びる三角形が認められ,傍横隔膜尖頭(juxtaphrenic peak)という(図7-7-3).
2)左上葉の無気肺:
右上葉と異なり小葉間裂がなく,大葉間裂が前方縦隔側へ偏位する.無気肺は前縦隔へ偏位するため正面像では心陰影左側のシルエットサインが陽性となる.過膨張した下葉上部は三日月様にみえることからLuftsichelサイン(空気の三日月)とよばれる.胸部X線写真では,左上葉全体の無気肺と上区のみの無気肺は同様の所見を示す(図7-7-4).
3)右中葉の無気肺:
無気肺が右心房に接するため,心陰影右側のシルエットサインが手掛かりである.側面像では,大葉間裂の中葉下葉間裂が上方へ,小葉間裂が下方へ移動する(図7-7-5).
4)下葉の無気肺:
側面像では,下葉の無気肺は左右共に,大葉間裂 の上葉下葉間裂は下方へ,下葉中葉間裂は後方へ偏位する.正面像では大葉間裂が肺門から下方側面へ伸びる明瞭な線として認められる.正面像では大葉間裂は縦隔側下方へ偏位する(図7-7-5,7-7-6).
鑑別診断・治療
胸部X線写真での無気肺のパターンを見逃さないことである.無気肺が疑われれば,原因の精査のために,喀痰検査,胸部CT,気管支鏡など行う.閉塞性であれば,腫瘍,異物,リンパ節腫脹,粘液栓,気管支結核などを疑う.粘液栓や異物であれば気管支鏡を用いて除去する.その他の原因では,原疾患の治療を行う.[桑野和善]
■文献
Fraser RG, Pare PD, et al: Diagnosis of Diseases of the Chest, 4th ed, pp513-560, WB Saunders, Philadelphia, 1999.
林 邦昭:無気肺.胸部単純X線診断(林 邦昭,中田 肇 編),pp105-115, 秀潤社,東京,2002.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
無気肺
むきはい
Atelectasis
(呼吸器の病気)
何らかの原因で気管支がふさがれ、閉塞部位から末梢の肺に空気が入らなくなり、肺がつぶれた状態を指します。
異物、肺がん、気道の瘢痕性狭窄、痰などの気道への滲出物が原因になりえます。とくに肺がんの存在を否定することが重要です。
原因となる病態によって無気肺自体による症状が明らかでないことが多いのですが、咳、喀痰、胸部圧迫感、胸痛、呼吸困難、頻呼吸などの症状が認められます。喀痰は粘性、漿液性から膿性までさまざまです。ヒューヒューという喘鳴や、ふさがった部分の感染による発熱が認められることもあります。
胸部X線像、胸部CT像によって無気肺となった部位の診断が可能です。気管支鏡によって気道内の病変の様子を評価します。
原疾患の治療を行い、気道の開通を目指します。
喀痰などの分泌物が原因の場合、体位変換、タッピング(手のひらと指でおわん型をつくり、軽く叩く方法)、ネブライザー吸入、去痰薬の投与が行われます。気管支鏡を用いた処置を必要とする場合もあります。
千田 金吾
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
無気肺
むきはい
種々の原因によって肺胞または肺胞気道系がその中の空気を失って収縮した状態をいう。原因は異物、分泌物、腫瘍(しゅよう)などの気管支内充満による気道の閉塞(へいそく)、気道周囲のリンパ節、腫瘍による気管支の圧迫、気胸、胸水、膿胸(のうきょう)などによる肺の圧迫、肺出血などによる肺胞表面活性物質の喪失によるものなどがある。中葉気管支はその解剖学的条件から狭窄(きょうさく)や閉塞をおこしやすく、ここにおこった無気肺を中葉症候群という。小範囲の無気肺は症状を示さないが、広範囲で急性のときは呼吸促進、呼吸困難、胸痛などを訴える。X線検査は境界が明らかな濃厚で均等な陰影を示す。短期間で寛解せず感染がおこると予後が悪い。治療は原因を取り除くのが第一である。
[山口智道]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
むきはい【無気肺】
肺の中の空気が著しく減少したり、肺の中に空気が入っていない領域ができた場合を、無気肺といいます。
無気肺には、つぎのような種類があります。
閉塞性無気肺(へいそくせいむきはい) 気管支内腔(ないくう)が閉塞したためにおこる無気肺です。気管支壁にできた肺がん、気管支内の異物や分泌物(ぶんぴつぶつ)、腫(は)れたリンパ節による気管支の圧迫などが、気管支を閉塞させることでおこります。
圧迫性無気肺(あっぱくせいむきはい) 胸水(きょうすい)(肺にたまった水)、気胸(ききょう)(肺がふくらむことができず、縮んだ状態)、膿胸(のうきょう)(肺内にたまった膿(うみ))などによって肺が圧迫されておこります。
症状は、原因、病変の広さ、おこり方によってちがいますが、せき、たん、胸の痛みなどがみられます。感染をともなうと、発熱、膿のようなたんがみられます。
胸部X線写真およびCTで診断できます。また、気管支ファイバースコープを使って気管支内を観察し、閉塞性無気肺、圧迫性無気肺をおこしている原因を見つけることができます。
治療は、原因を治すことです。感染をともなっているときは、抗生物質の使用が必要になります。
出典 小学館家庭医学館について 情報
無気肺 (むきはい)
atelectasis
肺拡張不全ともいい,肺の膨張不全の状態をいう。気管支の閉塞によって生じるもので,閉塞したところから先の肺では換気が行われないため,含気が著しく減少する。胸部X線写真では,均等な不透明像を示す。原因は,痰の気管支内貯留,気管支の炎症,腫瘍による圧迫,および気管支周囲の病変による外部からの気管支圧迫などである。肺の中葉に発生した場合は,とくに中葉症候群middle lobe syndromeと呼ばれる。無気肺は感染の主要な原因となるので,早急に再膨張を図らねばならない。腫瘍による場合は肺切除を必要とすることが多い。
執筆者:吉竹 毅
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
無気肺
むきはい
atelectasis
肺拡張不全。肺虚脱。肺胞内に含まれる空気の量が少いか,あるいはまったく欠如して肺が縮小した状態。胸水,気胸,心膜炎などの肺外からの肺の圧迫によるものと,気道が閉塞し,残気が吸収されて起るものがある。症状としては,咳,痰,喘鳴,呼吸困難などがある。後者は手術後などにみられる。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報