始めは処女のごとく後は脱兎のごとし(読み)はじめはしょじょのごとくのちはだっとのごとし

故事成語を知る辞典 の解説

始めは処女のごとく後は脱兎のごとし

弱々しく見せかけて敵を油断させておき、ものすごい勢いで攻撃して、一気に敵を打ち破ることのたとえ。

[使用例] 女中の仕度して下へ行くまでは座敷の隅に小さくなって顔もげず、話しかけても返事さえ気まりわるくて口の中という風なり。始め処女ごときはやがて脱兎おわりを示す謎とやいうべき[永井荷風*桑中喜語|1926]

[使用例] ある時は処女の如く、あるときは脱兎の如く、時に雲助の如く喧嘩腰になるかと思うと、時に居候の如くにハニカむ[坂口安吾*文人囲碁会|1948]

[由来] 「孫子―九地」の一節から。敵と実際に戦う際の戦術として、「始めは処女のごとく(最初は、まだ若い女性のように弱々しく)」行動して敵を油断させ、「後には脱兎のごとく(そのあとは逃げる兎のようにすばやく)」攻撃すれば、敵は防ぎようがなくなる、と述べています。

[解説] ❶「孫子」は兵法の書ですが、「百戦百勝は善の善なる者に非ずという故事成語も生んでいるように、戦わずして勝つことを重視しています。それでも実際に戦わなくてはいけなくなった場合の心得が、この一節。損害を少なくするために、速やかに決着をつけるのが重要だ、というわけです。やはり「孫子」から生まれ、同じような意味を表す故事成語に、「兵は拙速を貴ぶがあります。❷最後部分だけを取り出して、「脱兎の如く」「脱兎のように」「脱兎の勢い」などの形でも、よく用いられます。これらの場合も、「ものすごい勢いで」という意味を表すのが基本。しかし、現在では、「脱兎」の持つ「逃げていく」イメージから、「大慌てで逃げ出す」場合に使われるようにもなっています。

出典 故事成語を知る辞典故事成語を知る辞典について 情報

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