孫子(読み)そんし

精選版 日本国語大辞典 「孫子」の意味・読み・例文・類語

そん‐し【孫子】

[一] 「そんぶ(孫武)」の敬称。
[二] 「そんぴん(孫臏)」の敬称。
[三] 「そんこう(孫康)」の敬称。
[四] 中国戦国時代の兵法書。一巻一三編。呉の孫武撰。戦略戦術の法則、準拠の詳細を説明。古代中国の戦争体験の集大成で簡潔警抜な記述による名文で知られる。後世兵学への影響は大きく、「呉子」「六韜(りくとう)」「三略」などの類書を生じ、それらと総括して七書と呼ばれる。
[五] 斉の武将孫臏の兵法書。全三〇編。(四)と比べてより具体的で実際的。

まご‐こ【孫子】

〘名〙
① 孫と子。また、孫または子。
愚管抄(1220)三「国王御子なくば孫子をもちゐるべしといふ道理いできぬ」
② 子孫。後裔。
浮世草子西鶴織留(1694)一「孫子(マゴコ)の豕(いのこ)を祝ひ、おふくろさまの御法体に丸頭巾を進上申」

そん‐し【孫子】

〘名〙 孫と子。孫または子。まごこ。
※凌雲集(814)和菅清公賦早雪〈嵯峨天皇〉「班姫秋扇已無色、孫子夜書独有明」 〔詩経‐大雅・文王〕

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デジタル大辞泉 「孫子」の意味・読み・例文・類語

そん‐し【孫子】

孫武または孫臏そんぴんの敬称。
中国、戦国時代の兵法書。1巻13編。呉の孫武の著といわれる。成立年代未詳。始計・作戦・軍形・兵勢などに分け兵法を論じる。「呉子」とともに孫呉と並称される。1972年に発見された竹簡により、現在の「孫子」は孫武の「孫子兵法」の一部であり、別に孫臏の「孫臏兵法」が存在したことが解明された。

まご‐こ【孫子】

孫と子。
子孫。後裔こうえい。「孫子の代まで栄える」
[類語]子孫末裔後裔末孫後胤末葉子子孫孫

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「孫子」の意味・わかりやすい解説

孫子
そんし

生没年不詳。従来は、中国古代の兵法家で春秋時代の呉(ご)の将軍孫武(そんぶ)、またはその著作になる13編の兵法書をさす。あるいは孫武の子孫で戦国時代の斉(せい)の孫臏(そんぴん)(前340ころ)、またはその著書をいう。

 ところが、1972年、銀雀山(ぎんじゃくざん)(山東省臨沂(りんぎ)県)の紀元前2世紀初頭のものと推定される漢墓から出土した兵書の竹簡によって、『孫子』には、在来の『孫子』と『孫臏』の2種類があったことが判明した。中国側のその後の報告によれば、『孫子』の竹簡305枚(2300余字)、『孫臏』の竹簡440枚(1万1000字以上)が解読されている。古書に名をとどめるのみで、姿を隠していた幻の兵書『孫臏』の出現は、『史記』の記載(孫武と孫臏の伝記)や『漢書(かんじょ)』「芸文志(げいもんし)」の記録(『呉孫子兵法』82編・図九巻、『斉孫子』89編・図四巻)の正しさを立証したばかりか、『孫子』の著者をめぐる論争にも終止符を打つことになった。

[篠田雅雄 2015年12月14日]

『孫子』

在来の『孫子』は兵法書のなかでも古典中の古典と高く評価され、次の13編からなる。「計」「作戦」「謀攻」「形」「勢」「虚実」「軍争」「九変」「行軍」「地形」「九地」「火攻」「用間」。「彼を知り己を知らば百戦あやうからず」「その疾(はや)きこと風のごとく、その徐(しずか)なること林のごとく、侵掠(しんりゃく)すること火のごとく、動かざること山のごとし」などの名句は有名であるが、戦略・戦術について総合的に論じた兵法書で、道家的色彩を帯びた深い思想性をもつものといえよう。著者孫武については『史記』によれば、斉の人、兵法書13編を著すとある。呉王闔閭(こうりょ)(在位前515~前496)に仕え、西は楚(そ)を破り、北は斉、晋(しん)を脅かして、天下にその勇名をとどろかせた。呉王が諸侯の覇となりえたのも、孫武の力に負うところが多かったという。

[篠田雅雄 2015年12月14日]

『孫臏兵法』

臨沂銀雀山漢墓発掘調査団の「竹簡整理小組」の解読、整理によれば、次のように、上下、全30編に分かれる。上編――擒龐涓(きんほうけん)、〔見威王(けんいおう)〕、威王問(いおうもん)、陳忌問塁(ちんきもんるい)、簒卒(さんそつ)、月戦(げっせん)、八陣(はちじん)、地葆(ちほう)、勢備(せいび)、〔兵情〕、行簒(こうさん)、殺士、延気、官一(かんいつ)、〔強兵〕。下編――十陣、十問、略甲、客主人分(かくしゅじんぶん)、善者、五名五恭(ごきょう)、〔兵失〕、将義、〔将徳〕、将敗、〔将失〕、〔雄牝城(ゆうひんじょう)〕、〔五度九奪(ごどきゅうだつ)〕、奇正。

 解説によれば、〔 〕付きの編名は、原文にはなく整理者が補ったものである。この書は、現行の『孫子』より成立年代が新しいはずなのに、文体はかえって古めかしく、原始的とさえ感じさせる部分もある。内容は、社会状況の推移による戦争形態の変化を反映して、城市攻略、陣地戦に重点が置かれ、『孫子』に比べてより具体的であり、実際的である。

 著者については、『史記』に、「斉の人。孫武の後裔(こうえい)。鬼谷子(きこくし)の弟子。同学の龐涓(ほうけん)(?―前341)にその優れた才能をそねまれ、欺かれて罪に陥(おと)され、両足を切断される。のち斉に逃れて威王(いおう)(在位前356〜前320)に仕え、謀(はかりごと)によって魏(ぎ)軍を破り、龐涓を自害させる。その兵法を後世に伝える」とある。

[篠田雅雄 2015年12月14日]

『村山吉広編『中国古典文学大系4 老子・荘子・列子・孫子・呉子』(1973・平凡社)』『山井湧編『全釈漢文大系22 孫子・呉子』(1975・集英社)』『村山孚訳『孫臏兵法』(1981・徳間書店)』『金谷治編『孫子』(岩波文庫)』『佐藤堅司著『孫子の思想史的研究』(1962・風間書房/1980・原書房)』『佐藤堅司著『孫子の体系的研究』(1963・風間書房)』『郭化若編・訳『孫子今訳 附「宋本十一家注孫子」』(1961・中華書局)』

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改訂新版 世界大百科事典 「孫子」の意味・わかりやすい解説

孫子 (そんし)
Sūn zǐ

中国古代の兵書。兵法書のうち最も著名で,日本での影響も大きい。全13編。春秋時代の呉の孫武(前500年ごろ)の著とされるが戦国(前4世紀)の作であろう。行軍,地形,火攻,用間(スパイ)などという各論も精密であるが,〈兵は国の大事〉として開戦の慎重さを求め,戦争の主導性を強調するなど特色に富み,そこに人生問題一般に通ずる深い思想性がみられる。日本ではすでに《続日本紀》天平宝字4年(760)の条に《孫子》の記事が見え,江戸時代には荻生徂徠,新井白石,佐藤一斎らの注釈書が出ている。なお戦国時代の斉の孫臏(そんぴん)の兵書も《孫子》といい,近年中国で発見された。
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百科事典マイペディア 「孫子」の意味・わかりやすい解説

孫子【そんし】

中国,春秋時代に成立した兵書。《呉子》と並称される。1巻13編で,始計,作戦,謀攻,軍形,兵勢,虚実,軍争,九変,行軍,地形,九地,火攻,用間からなる。最も広く読まれた兵法書。著者はの孫武または孫【ぴん】(そんぴん)といわれ,兵法をもってに仕えたという。→兵家
→関連項目尉繚子

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「孫子」の解説

孫子(そんし)

『史記』孫子列伝には二人の兵法家の孫子が登場する。一人は春秋時代人の孫武(そんぶ),もう一人は孫武の子孫の戦国時代の孫臏(そんぴん)である。ふつう孫子といえば孫武をさす。孫武は呉の闔閭(こうりょ)に仕え,将軍となり,兵法書13編を著した。孫臏も斉の威王に仕えて,を攻めるのに功があった。現在の『孫子』13編は,三国曹操(そうそう)の注釈本までしかさかのぼれないが,山東省から漢代の竹簡(ちくかん)の『孫子』が出土した。『孫子』には,敵を事前によく知り,機先を制すべきことなど,具体的な戦術論が展開されている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「孫子」の意味・わかりやすい解説

孫子
そんし
Sun-zi

中国,春秋時代の軍略家およびその著書名。孫子とは,春秋時代,呉の闔閭 (こうりょ。前 515~496) に仕えた名将孫武,あるいは,戦国時代,斉の軍師であった孫ぴん (前4世紀) という。ただし,現存の『孫子』 13編は3世紀初期の魏の曹操 (武帝) が編集したものといわれる。「兵は国の大事,死生の地,存亡の道」とする立場から,国策の決定,将軍の選任,行軍,輸送,その他作戦,戦闘の全般にわたって,格調高い文章で,簡潔に要点を説き,絶えず主動的位置を制して,戦わずに勝つことを主としており,また思想的な裏づけもある。兵法の書7種,いわゆる「七書」のうちで最もすぐれており,古来,作戦の聖典として尊重されているだけでなく,一般社会の競争の場においての教訓もある。日本には,天平宝字4 (760) 年に渡来し,武士,軍人に愛好された。

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旺文社世界史事典 三訂版 「孫子」の解説

孫子
そんし

中国古代の兵法書
春秋時代の呉に仕えて楚を破り,斉 (せい) ・燕 (えん) を屈服させた孫武の著作と,戦国時代に斉に仕え,魏を破って大功のあった軍師の孫臏 (そんぴん) の著作の2種類があることが,確認されている。国家経営・戦略・人間の使い方などに非凡な見解を示しており,『呉子』とともに「孫呉の兵法」と称される。

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デジタル大辞泉プラス 「孫子」の解説

孫子

海音寺潮五郎著。1964年刊行。春秋時代末期、孫子と呼ばれた二人の人物、孫武と孫ピン(「ピン」は「月へん」に「賓」)を主人公とした歴史小説。

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普及版 字通 「孫子」の読み・字形・画数・意味

【孫子】そんし

子孫。

字通「孫」の項目を見る

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