子どものアトピー性皮膚炎(読み)こどものあとぴーせいひふえん(英語表記)Atopic Dermatitis

家庭医学館 の解説

こどものあとぴーせいひふえん【子どものアトピー性皮膚炎 Atopic Dermatitis】

◎かゆみの強い湿疹(しっしん)が全身
[どんな病気か]
 まずはじめに、これは皮膚の病気であることを強調しておきます。他の臓器にはまったく症状がみられないからです。
 この病気は、生後2か月以降の乳児期から、かゆみの激しい湿疹が、全身のあらゆる場所に生じるものです。慢性化することも特徴で、数年以上続くこともめずらしくありません。ただし、症状が目立つ時期や軽快する時期にはかなり個人差があります。
[症状]
 乾燥して粉をふいたようなザラザラした皮膚(乳児期には目立たないこともあります)に加え、つぎに述べるような特徴的な症状があるため、すぐに診断がつきます。
 顔(おでこ、目の周囲、頬(ほお)、顎(あご))、耳の前と後、耳たぶの下(裂けることがある)、くび、関節の内側と外側などに赤いカサカサやぶつぶつができ、強いかゆみがあります。また、ジュクジュクと汁が出てかさぶたができたり、切れたりします。これがくり返してでき、かくうちに、皮膚はゴワゴワに厚くなり、かたいしこりになったりします。
 このほか、頭皮(とうひ)が乾燥し、白いふけのような湿疹ができたり、手足があれたりします。また、肩から背中に乾燥性湿疹ができたり、おしりや外陰部、太もものつけ根に湿疹がみられることもあります。
 アトピー性皮膚炎のもう1つの特徴は、症状に季節的な変動があるということです。多くの場合、夏には症状が軽くなります。これは、夏には皮膚が乾燥しにくくなるためと考えられています。ただし、汗や細菌感染の影響で逆に夏に悪化する人もいます。
[原因]
 遺伝的な素因(もって生まれた体質)によります。祖父母、両親、兄弟姉妹、いとこ、おじやおばにアトピー性皮膚炎だけでなく、アレルギー性鼻炎(びえん)(花粉症(かふんしょう)を含む)、アレルギー性結膜炎(けつまくえん)、ぜんそく、じんま疹(しん)をもつ人がいると、その家系にはアトピー体質があると判断できます。
 アトピー体質というのは、アレルギーをおこしやすい体質と考えてよいのですが、必ずしもアレルギーだけが原因でアトピー症状がおこるとはかぎりません。たとえば、アトピー性皮膚炎の人がチクチクするような毛糸の衣類を着たとき、また、たくさん汗をかいたときに湿疹が悪化することがあります。これはアレルギーとはちがい、刺激を受けたためにおこる現象です。また、皮膚が乾燥しにくい夏に症状が軽くなるという事実は、もともとアトピー体質の人にはもって生まれた皮膚の性質があるということ、つまりアレルギー以前の問題があるということを物語っています。
 こういう乾燥性皮膚の原因として、アトピー体質の人には皮膚の角質層(かくしつそう)のセラミドという脂質(ししつ)がつくられにくいことが最近わかってきました。アレルギーの原因として、乳児期には食物、乳児期以降はダニ、室内塵(しつないじん)(ハウスダスト)などがあげられています。しかし、これらが関係しているかどうかは人によって異なります。なかには関係していない場合もあります。マスコミの情報や人から聞いた話などから自己判断して、まちがった対応をしないように気をつけましょう。
[検査と診断]
 この病気は世界中でみられますが、診断は特徴的な症状によって決めます。逆にいうと、検査は原因を調べることには直接役立たないことが多いということになります。検査が必要かどうか、またどんな検査を実施するかは人によってちがいます。自己判断せず、専門医受診をお勧めするのはそのためです。
 検査方法には、大きく分けて血液検査と皮膚検査があります。血液検査は、アレルギーの原因となる動植物や食物(抗原(こうげん))などに対して血液中に抗体(こうたい)ができているかどうかを調べるものです。
 皮膚検査には、それらの抗原エキスを少し皮膚をひっかいたところにたらして、じんま疹がおこるかどうかをみるプリックテストや、抗原を皮膚に貼(は)って24時間以上たってから反応をみるパッチテスト(貼付試験(ちょうふしけん))などの方法があります。
 そのほか、より詳細なことがわかるアレルギーの検査方法も開発されていますが、実際の治療に役立つ検査は、まだ少ないといわざるをえません。
◎外用剤とスキンケア
[治療]
 アトピー性皮膚炎は皮膚に症状がある病気ですから、皮膚に直接塗って治す外用剤(塗り薬)が治療にいちばん適しています。
 症状が軽い場合は、乾燥をとる保湿外用剤、たとえば白色ワセリンなどだけでも徐々によくなります。ところが、患部をかきこわして細菌感染がおこっている場合や、炎症がひどくて夜も眠れないほどかゆみが強い場合などには、それらを早く治さないと、夜間など無意識にかき続け、さらに悪化させてしまうことがあります。治療が遅れると、全身のリンパ節が腫(は)れて悪寒(おかん)がし、食欲減退、脱水などをまねき、危険な状態になることもあります。
 炎症をとる薬として現在広くつかわれているのは副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)薬の入った塗り薬(外用剤)です。ステロイド外用剤は、副作用が強調されて報じられることがありますが、適切に使えばこわい薬ではありません。これによって炎症を早く鎮め、徐々に清潔と保湿を中心にしたスキンケアにきりかえていきます。
 ステロイド外用剤は、作用の強さで5段階に分けられています。これらの使い分けや、使用量および使用期間については専門的な知識と経験が必要になります(「ステロイド外用剤の使い方と副作用」)。治療中は医師が症状の程度に応じてきちんと処方してくれますから、自己判断で勝手に使用を中止したりしないようにします。
 かゆみや炎症症状がとくに強い場合は、かゆみ止めの抗ヒスタミン薬やアレルギーをおこしにくい状態を保つための抗アレルギー薬を内服します。
[予防]
 家庭で毎日、皮膚を清潔にし、乾燥させないための保湿ケアをこまめに行なうことがたいせつです。シャンプーや石けんは低刺激のものを選びます。保湿剤は選択がむずかしいので、専門医に相談しましょう。また、室内の環境整備、寝具の選び方なども相談し、個人の生活に合わせながら症状を改善していくようにしましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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