日本大百科全書(ニッポニカ) 「アトピー性皮膚炎」の意味・わかりやすい解説
アトピー性皮膚炎
あとぴーせいひふえん
atopic dermatitis
かゆみのある湿疹(しっしん)が慢性的に繰り返しおこる皮膚疾患。日本皮膚科学会および日本アレルギー学会が合同で作成している『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン』(2018)では、「増悪と軽快を繰り返す瘙痒(そうよう)のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されている(「アトピー素因」については後述)。
[高増哲也 2020年3月18日]
診断
診断は、(1)かゆみ、(2)特徴的皮疹(ひしん)と分布、(3)慢性・反復性経過(6か月以上、ただし乳児は2か月以上)の三つを満たすことで行われる。かゆみは、皮膚温の上昇や発汗、気持ちが落ち着かないとき、物事に集中していないときなどに増強しやすく、睡眠障害の原因となるなど、生活の質(quality of life:QOL)を損なう要因となる。
[高増哲也 2020年3月18日]
症状
症状の特徴として、湿疹は額、眼(め)の周囲、口の周囲、耳介周囲、首、四肢の関節部、体幹にみられやすいこと、しばしば左右対称に現れること、ドライスキンを伴いやすいことがあげられる。
アトピー素因とは、アレルギー疾患(気管支喘息(ぜんそく)、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎)の家族歴・既往歴、またはアレルギー反応に関与している免疫グロブリンE(IgE)抗体を産生しやすい素因(体質)のことをさす。アトピー素因はアトピー性皮膚炎の病態にかかわりがあるが、診断の必須(ひっす)項目ではない。
[高増哲也 2020年3月18日]
治療
治療の基本は、(1)スキンケア、(2)薬物療法、(3)悪化因子対策である。
スキンケアは、皮膚を清潔に保ち、かつ保湿された状態にすることである。清潔のためにはせっけんを十分に泡立てて用いること、皮膚のしわを伸ばして洗うこと、せっけん成分を十分に洗い流すことがポイントとなる。保湿が必要な場合には、入浴後速やかに保湿薬・保護薬などのスキンケア用品を塗布する。
薬物療法では、皮膚におきている炎症を抑えることを目的として、ステロイドの外用薬または免疫抑制薬の外用薬を塗布する。適度な強度の薬剤を適量使用することで、十分な効果をあげることができる。なお薬物療法においては、症状の悪化時にのみ外用療法を行う(リアクティブ療法)よりも、症状の再燃を予防するために、症状が落ち着いているときにも間隔をあけて外用療法を行う「プロアクティブ療法」が勧められている。
悪化因子対策は、「どういう状況でどの部位の症状が悪化するのか」といった事実の確認によって悪化因子をみつけ、それについての対策を行うものである。たとえば夏季に関節の屈曲部を中心に悪化がみられる場合は、汗が原因となっていると考えられるので、汗をかくたびにこまめにシャワーを浴びる。冬季に広範囲にドライスキンとなっている場合は、乾燥が原因となっていると考えられるので、入浴直後に保湿薬を塗布するなどの対策をとる。
かゆいときにかくことは避けがたい。かかないようにと考えるよりも、適切な治療でかゆみが落ち着くように導くことが大事である。
[高増哲也 2020年3月18日]