家庭医学館 の解説
すてろいどがいようざいのつかいかたとふくさよう【ステロイド外用剤の使い方と副作用】
ステロイド外用剤(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン剤(ざい))は、1950年代に登場して以来、その優れた抗炎症作用で皮膚科の外用療法の中心となり、より薬効の強いものの開発が進められてきました。しかしながら、長期間の外用や誤った使用法をすると、局所的、全身的な副作用が出現すること、とくに薬効の高いステロイド外用剤ほど副作用の発生頻度が高いこともわかってきました。そこで、ステロイド外用剤による治療を有効かつ安全に行なうために、同剤を薬効の強さによって分類する必要性が出てきました。今では、病気の種類や症状に応じてじょうずに使い分けることが求められています。
●ステロイド外用剤の副作用
ステロイド外用剤の副作用には、成分が血液中に吸収されることによって、からだ全体に生じる全身的副作用と、外用した部位だけに限られる局所的副作用とがあります。
全身的副作用は、外用剤の成分が皮膚から吸収されて血液中に移り、内服や注射などによる全身への使用と同様の影響が出るものです。それによって高血圧や糖尿病が誘発されたり、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)(骨がもろくなる症状)になったり、幼小児では発育抑制がおこることがあります。しかし、このような全身性の副作用がおこるのはまれです。かなり強いランクの外用剤を1日10g以上数か月間使い続ければ別ですが、そのような使い方をすることは実際にはめったにないからです。
最近、全身的副作用を軽減する目的で、アンテドラッグと呼ばれるステロイド外用剤が登場しました。これは外用した部位では効果を発揮するが、血液に取り込まれたら分解されて効力が低下してしまうという薬です。このアンテドラッグの性格をもつステロイド外用剤には、酪酸(らくさん)プロピオン酸ヒドロコルチゾン製剤、吉草酸酢酸(きっそうさんさくさん)プレドニゾロン製剤、ジフルプレドナート製剤、プロピオン酸ベクロメタゾン製剤などがあります。
このようなことで、現在ではステロイド外用剤による全身的副作用は、ほとんどおこらないと考えてよいのです。
ステロイド外用剤の局所的副作用には、皮膚萎縮(いしゅく)、毛細血管拡張(もうさいけっかんかくちょう)、ステロイド潮紅(ちょうこう)、酒様皮膚炎(しゅさようひふえん)・口囲皮膚炎(こういひふえん)、ステロイド紫斑(しはん)、痤瘡(ざそう)(にきび)、多毛(たもう)、感染症の悪化などがあります。顔面はステロイド薬の吸収が他の部位より多く、局所的副作用が現われやすく、とくに注意が必要です。また、頸部(けいぶ)や肘窩(ちゅうか)(肘(ひじ)のくぼみ)など、皮膚が薄いところも注意しなければなりません。
ただし、副作用をおこすのは、誤った使い方が原因であることが大半です。患者さんが自分勝手な判断で使ったり、ステロイド外用剤の使用法を正しくマスターしていない非専門医に処方された場合がそうです。また、もともとの病気が悪化したり、別の病気にかかったのを患者さんが副作用と思い込んでいる場合もあります。副作用のみきわめには、必ず皮膚科専門医の診断を受けましょう。
●ステロイド外用剤の剤形
ステロイド外用剤の剤形(薬の形状)は、軟膏(なんこう)、クリーム、ローション、ゲル(ゼリー状)、スプレー、テープ剤などさまざまです。それぞれ有効成分が、もっとも効率よく皮膚に吸収されるよう工夫されています。
軟膏とクリームには、厳密な使い分けはありません。湿った患部や乾いた病変部には軟膏のほうがよいと思われますが、べたつくという欠点があります。クリームは、使用感がよく、汗をかきやすい夏場や顔面にも使いやすいのですが、病変によっては刺激感をともなうことがあります。
ローションやゲルは、頭部など、毛の生えたところ(有毛部(ゆうもうぶ))に用い、スプレーは有毛部のほか、日焼けなどに使います。テープ剤は、苔癬化型湿疹(たいせんかがたしっしん)、痒疹(ようしん)など、難治性の乾燥性病変に用います。
●ステロイド外用剤の使い方
副作用をおこさぬよう、じょうずに使い分けなければなりませんが、皮膚から外用剤が吸収される程度は患者さんの年齢、部位、病変の状態によって異なるため、標準的な使い方というものは確立されていません。
たいせつなのは、ステロイド外用剤の有用性と副作用をよく熟知している皮膚科専門医の指示にしたがって使うことと、定期的に通院することです。また、病気の性質に応じて外用剤を選択してもらうこともたいせつです。
たとえば、接触皮膚炎(せっしょくひふえん)(かぶれ)などの急性病変(進行の早い病気)では、短期間で治すために顔面でもかなり強いものを1週間ほど使用しますが、なんら問題はありません。
しかし、乾癬(かんせん)やアトピー性皮膚炎など、長期間使用しなければならない病気では、状態をコントロールできるうちでもっとも薬効ランクの低い外用剤を処方してもらい、症状に応じて保湿剤や非ステロイド薬をうまく併用するようにします。
ただし、ステロイド外用剤を安易にワセリンや保湿剤、非ステロイド系外用剤など他の外用剤とまぜて使うのは考えものです。ステロイド外用剤は、それぞれもっとも吸収効率のよい基剤(きざい)が選ばれ、主成分がちょうどよい濃度に調整されたものであること、また他の外用剤と混合することによる配合変化など、薬剤の安定性の問題があるからです。