学位法制(読み)がくいほうせい

大学事典 「学位法制」の解説

学位法制
がくいほうせい

現代社会において学位は,各国の公教育体系の一部に組み込まれた教育機関(一般には大学)の修了証明であり,その取得の有無が特定の職業への参入資格として用いられるなど社会的地位選抜・配分機構として重要な機能を果たしていることから,その取扱いについて法令等によって何らかの制限が設けられることが一般的である。学位に関する法制としては,教育機関に対しては①学位授与権の有無・制限,②授与する学位の種類や名称に関して,個人に対しては③学位名称の使用に関して,規定が設けられていることが通例である。

[学位授与権]

ここでいう学位授与権の有無・制限とは,どのような要件を満たす機関が,学位を授与することが認められるかに関する基準のことである。具体的には,ある学位を授与するために必要な教育課程修業年限(標準的な学修量),教育上の目的や教育内容,教員が有するべき資格要件,専任教員数,校地・校舎面積,図書館の蔵書数などの教育研究条件,国・政府が直接設置する機関でない場合には,機関を設置する団体の法的性格や資格などの各項目について具体的な基準が規定される。ただし,こうした基準は学位授与権のみを規定するのではなく,大学の設置認可の基準として定められている場合が多い。この場合,学位授与権の有無,授与できる学位の種類によって高等教育機関を制度的に定義していると捉えた方がむしろ適当かも知れない。

 たとえば現在の日本では,学校教育法104条において「大学は,文部科学大臣の定めるところにより(中略)学位を授与するものとする」等と規定するのみであり,大学(厳密には大学の教育研究上の基本組織である学部・学科もしくは大学院研究科・専攻)としての設置が認められることと,当該大学が学位授与権を有することは同義である。一方フランスのように大学の設置と学位授与権の付与が分離され,高等教育機関が修了者に学位を授与するためには,各機関が対応する国家免状の授与権認証を国から受けなければならない例もある。また,大学(高等教育機関)の設置認可は州の権限だが,学位授与権は地域アクレディテーション団体による適格認定を受けて付与されると解説されることが多いアメリカ合衆国においても,現在では州の認可なしに学位またはそれに類する免状等を発行することを禁じている州が多く,新設の大学が学位を授与するためには実質的に州の認可を受けることになる。ただし,適格認定を受けていない大学が発行する学位が社会的通用性を有するかは別問題である。

[学位の種類・名称]

学位の種類,名称・表記方法についても程度の差こそあれ,多くの国で法令によって規定されている。日本では,学位の種類(日本)については学校教育法104条ならびに学位規則(文部科学省令)により,修了した課程に応じて学士,修士,博士,専門職学位,短期大学士とすること,大学等は学位を授与するに当たっては適切な専攻分野を付記することが定められている。ちなみに1991年(平成3)に学位規則が改定されるまで,博士,修士の学位については文学博士,法学博士のように専攻分野を冠した名称(博士19種類,修士28種類)が具体的に定められていた(当時,学士は法令上,学位とはされず称号の位置づけであったが,同様に29種類の学士の種類が大学設置基準において定められていた)。近年では社会のグローバル化の進展により,学位の国際通用性が問われるようになっているため,学位の種類については国際標準として博士(doctor),修士(master),学士(bachelor)に収斂する傾向にあるが,一方で専攻分野まで含めた学位の表記方法については,学問領域の多様化・学際化に伴い法令等であらかじめ制限することは困難になっている。

[学位名称の使用]

冒頭で述べたように,現代社会では学位の取得は社会的地位の選抜・配分機構として用いられていることから,学位を授与する教育機関に対してだけでなく,個人に対してもその使用について制限が設けられている。ここでも日本を例にとると,軽犯罪法(日本)により「官公職,位階勲等,学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し,又は資格がないのにかかわらず,法令により定められた制服若しくは勲章,記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者」は拘留または科料に処するとされ,学位詐称(日本)を詐称しそれを使用することが禁じられている。また,学位規則において「学位を授与された者は,学位の名称を用いるときは,当該学位を授与した大学又は独立行政法人大学改革支援・学位授与機構の名称を付記するものとする」とされており,学位の使用(日本)についても一応の制約が設けられている。もっとも,他人を欺いて不当に利得を得ようとした場合でなければ,こうした制約が厳密に適用されることはない。
著者: 濱中義隆

参考文献: 大学評価・学位授与機構編『学位と大学―イギリス・フランス・ドイツ・アメリカ・日本の比較研究報告』,2010.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報