安曇磯良(読み)あずみのいそら

精選版 日本国語大辞典 「安曇磯良」の意味・読み・例文・類語

あずみ‐の‐いそら あづみの‥【安曇磯良】

筑前に住むといわれた海底の神。福岡市東区志賀島の志賀海神社祭神。「九州道の記」「八幡愚童訓」に所見神功皇后新羅(しらぎ)征伐の際、龍宮から干珠満珠の宝を借りだして援助した「阿度部(あとべの)磯良」として「太平記‐三九」に伝える。

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改訂新版 世界大百科事典 「安曇磯良」の意味・わかりやすい解説

安曇磯良 (あずみのいそら)

中世以降の伝承に現れる古代精霊。阿度部(あとべの)磯良ともいう。《太平記》巻三十九によれば,神功皇后が三韓に征するさい天神地祇を常陸鹿島に招き軍評定を行ったが,ひとり海底に住む阿度部磯良のみが不参であった。諸神が神遊(かみあそび)の庭をもうけ〈風俗・催馬楽(さいばら)〉を歌わせたところ,磯良は感にたえかねて現れ出たが,容姿は貝や虫のとりつく醜い様を示しており,それを恥じて召請に応じなかったのだという。その後,磯良は竜宮に使いし皇后に干珠(かんじゆ)満珠(まんじゆ)の神宝をもたらす。皇后はそれによって潮の干満を左右し,征韓の業を遂げたという。これの類話は《八幡愚童訓(はちまんぐどうくん)》や16世紀の《塵添壒囊抄(じんてんあいのうしよう)》にも見えるが,いずれも〈安曇磯良〉となっている。安曇氏は海人あま)を宰領した古代豪族で,おそらく安曇磯良は海人の間に伝承された半神半人のシャーマンであったかと思われる。面貌の醜怪さはシャーマンの風貌を説話化したものであろう。
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朝日日本歴史人物事典 「安曇磯良」の解説

安曇磯良

古代の海の精霊。石清水八幡宮(八幡市)の霊験記『八幡愚童訓』(鎌倉時代末期に成立)に「安曇磯良と申す志賀島大明神」とある。「志賀島大明神」とは九州志賀島の志賀海神社(福岡市)の祭神。この神社は古代に海人族を率いた豪族安曇氏が祭っていた。イソラの出現の様は『太平記』巻39に「阿度部の磯良」の名で語られている。それによれば,神功皇后が新羅を攻めたとき諸神を招いたが,イソラだけは醜い容貌を恥じて応じなかったため,諸神が歌舞を奏して誘い出した。やがて海底の竜宮城から潮の干満の霊力を持つ秘宝(干珠,満珠)を借り請けて献上し,皇后は新羅を討つことに成功したという。宮廷神楽に「阿知女作法」とあるアチメは「安曇」あるいは「阿度部」を指し,古代芸能の偶像であった。<参考文献>折口信夫『日本芸能史』

(西條勉)

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「安曇磯良」の解説

安曇磯良 あずみの-いそら

伝承にあらわれる古代の精霊。
貝や藻や虫がとりついた容貌をしている。中世以降の話に登場し,「太平記」によれば,神功(じんぐう)皇后が三韓に出兵する際,竜宮に使いとしていき潮の干満を左右する干珠(かんじゅ),満珠(まんじゅ)の宝をもちかえったという。海人(あま)を統率した安曇氏の祖とされる。阿度部(あとべの)磯良ともいう。

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世界大百科事典(旧版)内の安曇磯良の言及

【磯等】より

…現行の歌詞は,〈本(もと) 磯等が崎に 鯛釣る海人も 鯛釣る 末(すえ) 我妹子(わぎもこ)が為と 鯛釣る海人も 鯛釣る〉。磯等が崎(伊勢)の名は湯立歌(ゆだてうた)にも見え,海底の神安曇磯良(あずみのいそら)と関係があるかといわれる。御神楽【石田 百合子】。…

※「安曇磯良」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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