家族、私有財産および国家の起原(読み)かぞくしゆうざいさんおよびこっかのきげん(英語表記)Der Ursprung der Familie, des Privateigentums und des Staats

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

家族、私有財産および国家の起原
かぞくしゆうざいさんおよびこっかのきげん
Der Ursprung der Familie, des Privateigentums und des Staats

エンゲルス著。1884年刊。マルクスとエンゲルスは単に資本主義社会の分析にとどまらず、広く人類の世界史、したがって資本主義社会に先行する社会諸形態についても深い関心をもち、それらを分析している。その代表的著作が、エンゲルスの筆になる本書であって、そこでは、たとえばモルガンの『古代社会』(1877)も利用して、人類の初期の社会諸形態が唯物史観の適用により、系統的に解明されており、人類の社会は原始共同体から奴隷制、封建制、資本制という発展経過をたどることが説明されている。

 本書の主要な論点は以下のようなものである。(1)原始共同体制度 エンゲルスは主としてモルガンに拠(よ)りながら、原始共同体の歴史を野蛮時代と未開時代に分け、それぞれを労働用具の発展と物質的生産の水準に応じ三つの段階に分けて論じている。原始社会は氏族部族のような血縁団体を基本に、生産手段はその共同所有に属している。共同所有のこの社会では、階級分裂はなく、人間の支配従属関係はなく、国家もなかった。(2)家族 初期の集団婚から一夫一婦制に至る家族形態の変化も、生産力の発展、生産様式の変化に伴う私的所有の発生と関連して説明されている。(3)国家 社会の生産力が発展し、労働生産性が向上するのに伴って私的所有と人間による人間の搾取が現れ、社会は階級に分裂する。この階級利害の矛盾を抑制する機能をもった国家が成立する。その意味において国家は人類の歴史の一定の発展段階に至って出現したものであり、歴史的産物である。国家の起原と本質に関する論点は、本書の核心部分である。今日的観点からみれば現代の国家としてのブルジョア共和制、とりわけ民主主義的自由に対する積極的評価と批判的見方は参考になる。また、プロレタリア革命と国家の粉砕そして国家の死滅に関するエンゲルスの指摘はきわめて深遠な内容を含んでいる。

安藤 実]

『戸原四郎訳『家族・私有財産・国家の起源』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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