日本大百科全書(ニッポニカ) 「射影平面」の意味・わかりやすい解説
射影平面
しゃえいへいめん
無限遠直線を付加した数学的平面をいう。射影平面は、位相的側面と、解析的側面から考察することができる。一つの線分を紐(ひも)と考え、丸めて両端を重ねれば円のように閉じる。数学のことばでは、線分の両端点を同一視すれば円と位相同形になるという。同様に の(1)のような四角形は辺ABとDCを同一視すれば の(2)の円柱面と位相同形になる。数学ではこのように、一つの点集合のなかのいくつかの点どうしをある法則によって同一視して新しい集合をつくることが多い。球面上で一つの直径の両端点となっている2点を互いの直径対点という。球面上の点全体のつくる点集合を考え、直径対点どうしを同一視すれば新しい集合ができる( の(3))。この集合を射影平面または二次元射影空間という。この場合、射影平面の構成要素(これを点とよぶ)は同一視された(普通の意味の)2点である。
次に、球面の赤道から南を切り捨ててしまうと、残った集合は赤道上だけQとQ′、RとR′のように直径対点が同一視されている半球面である( の(4))。このような集合も射影平面(の一つの表現)である。この場合、北半球でQの近くの点は当然Q′に近い。この射影平面をさらに変形する。この半球を平面上に伏せて真上から平面上に正射影する。この一対一対応で平面上にできる集合は円盤(円の周も含めた内部)で、円盤上の点全体のつくる集合は、その縁(ふち)の円周上では直径対点を同一視するという条件のもとで、また射影平面の一つの表現である。 の(5)でQ、R、Q′、R′の囲む帯状の部分はQRがQ′R′に逆さに同一視されているのでメビウスの帯と位相同形である。このように射影平面はメビウスの帯を一部分として含むことから不可符号(向きづけ不可能な曲面)であることがわかる。xy平面から出発した射影平面の解析的構成法を述べる。点(x, y)に対して
なる数X、Y、Zを対応させ、(X, Y, Z)を点(x, y)の斉次(せいじ)座標とよぶ。X:Y:Z=X′:Y′:Z′なる(X′, Y′, Z′)も同1点の斉次座標となるから、斉次座標は比例因子を除いて定まる。いま記号(X, Y, 0)(X、Yは同時にはゼロでないとする)と記号(X′, Y′, 0)はX:Y=X′:Y′なるとき同一視し、これらを点の仲間に入れて無限遠点とよぶことにする。もちろんこれらの新しい点はxy平面上には存在しない。X、Y、Zの一次方程式
(1) aX+bY+cZ=0
を満たす点全体の集合を射影直線とよぶ。Z≠0なる(1)の解は
(2) ax+by+c=0
を満たす点の全体であるから、xy平面上の直線である。Z=0なる(1)の解は(X, Y, Z)=(b, -a, 0)なる無限遠点である。したがって、射影直線とはxy平面上の直線に一つの無限遠点を付加したものである。(2)に平行な直線はax+by+c′=0の形なので、これら平行2直線は無限遠点(b, -a, 0)で交わることがわかる。無限遠点の全体は一つの射影直線をつくる。これを無限遠直線とよぶ。xy平面に無限遠直線を付加した点集合は、距離の概念を無視して位相的に変形すれば、先に述べた射影平面になる。一般にn次元数空間の点(x1, x2,……, xn)に対して
と置いて(X1, X2,……, Xn, X0)を斉次座標とよべば、n=2の場合と同様にしてn次元射影空間が構成される。
[立花俊一]