小児心身症(読み)しょうにしんしんしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「小児心身症」の意味・わかりやすい解説

小児心身症
しょうにしんしんしょう

小児において心理的、精神的な原因で身体的な訴え、あるいは症状がみられることがしばしばあるが、これらを総称して小児心身症という。心理的な原因でおこる身体の症状にはいろいろあるが、乳児期には食欲不振、ミルク嫌い、嘔吐(おうと)、憤怒(ふんぬ)けいれん(泣き入りひきつけ)などがあり、幼児期には腹痛頻尿、夜尿、嘔吐、夜驚(やきょう)などがみられ、学童期にはチック症、ヒステリー、神経性食欲不振などがある。

 神経性食欲不振は思春期るいそう症ともいわれ、思春期前あるいは思春期の女児に多くみられる。極端な食欲不振と、やせてくるのが特徴で、月経停止、体重減少、程度が進むと極端なるいそう(やせすぎ)に発展する。拒食によって大人になることを拒否しているとも解釈されることがある。

 心因性頻尿は、頻回尿意を訴える。緊張あるいは不安の強いときに多く、尿には異常がなく、夜間睡眠中にはみられない。

 心因性頭痛・腹痛は、幼児期、学童期に多く、なんらかの不安、ストレスによっておこる。家庭での親子関係、あるいは学校での友人関係などが原因となったり、早朝、登校・登園前におこることもある。登校拒否の最初の徴候のこともあるので注意を要する。

 憤怒けいれん(泣き入りひきつけ)は、6か月から3歳にかけての乳幼児に多い。おもちゃをとられたなど不快なことに直面し、急に泣きだすと、呼吸が止まって手足を突っ張り、無酸素性けいれんをおこす。脳波は正常であり、自然に治る。

 チックは、無意識におこる。無目的な速い運動で、おもに顔や首におこる。まばたき、顔しかめ、鼻すすり、首振りなどが瞬間的におこり、繰り返される。8~10歳ころに多く、原因は心理的なストレスと考えられ、多くは干渉的な口やかましい母親の存在がある。生活全体に干渉を避けて適当に扱うと自然に治癒する傾向が強い。

 ヒステリーは、小児でも一般に考えられるほどまれではない。心因性の原因でなんらかの身体徴候を繰り返し示す。おもな訴えは、めまい、腹痛、頭痛、視力障害、呼吸困難、過呼吸発作、歩けない、声が出ない、手足が動かない、物が飲み込めないなど、種々さまざまである。症状を裏づける病変がなく、暗示にかかりやすい。性格は人格発達が未成熟で、感情的になりやすく、家庭あるいは学校などでの心理的不安が原因で発病することが多い。

[山口規容子]

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百科事典マイペディア 「小児心身症」の意味・わかりやすい解説

小児心身症【しょうにしんしんしょう】

胃潰瘍喘息(ぜんそく)など,目に見える異常は身体症状でも,その発病の原因に精神的な割合が非常に高い病気を心身症といい,患者が子どもの場合を特に小児心身症という。最近では,この小児心身症が急増している。旭川医科大学と関連病院の調査によると,小児心身症の代表的な病気である消化性潰瘍にかかる小児(0〜14歳)は1970年代に急速に増えはじめ,調査開始の1962年から30年後の1992年には14倍以上になった。 小児心身症の主な原因は,(1)塾やけいこごとの過密スケジュール,(2)子どもどうしの対人関係のトラブル,(3)両親の不仲などの家庭問題――など。旭川医大の並木正義名誉教授によると,小児の潰瘍患者の85%はなんらかの塾通いをしており,うち60%は三つ以上の習いごとをしている。また,いじめられっ子の心理的なストレスは強烈で,急激に急性潰瘍を発症したり,慢性潰瘍に進展する例もある。 治療には心身両面のアプローチが大切で,家庭のあり方が病因となっている場合には,親も医師の診療を受けるなど,家族ぐるみの治療が欠かせない。

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