デジタル大辞泉
「心身症」の意味・読み・例文・類語
しんしん‐しょう〔‐シヤウ〕【心身症】
精神的・心理的要因から起こる、身体的な症状および疾患。胃潰瘍・高血圧・皮膚炎など。PSD(psychosomatic disease)。
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しんしん‐しょう‥シャウ【心身症】
- 〘 名詞 〙 その病態の出現に心理的因子が重要な役割をもっている身体的疾患の総称。〔頭脳(1958)〕
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しんしんしょう【心身症 Psycho-somatic Disorder】
[どんな病気か]
心理的な原因によって、特定の器官に限定されて身体症状が現われる疾患を、心身症と呼んでいます。これらの疾患を発生器官別に分けてみます。
●呼吸器系
気管支(きかんし)ぜんそく、過換気症候群(かかんきしょうこうぐん)(心因性呼吸困難(しんいんせいこきゅうこんなん))など。
●消化器系
反復性腹痛(はんぷくせいふくつう)、周期性嘔吐(しゅうきせいおうと)、過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)(便秘(べんぴ)、下痢(げり)など)、消化性潰瘍(しょうかせいかいよう)、神経性食欲不振症(しんけいせいしょくよくふしんしょう)、過食症(かしょくしょう)(摂食障害(「摂食障害」))など。
●循環器系
心臓神経症(しんぞうしんけいしょう)(頻脈発作(ひんみゃくほっさ))、高血圧症(こうけつあつしょう)、狭心症(きょうしんしょう)など。
●泌尿器系(ひにょうきけい)
神経性頻尿(しんけいせいひんにょう)、夜尿症(やにょうしょう)など。
●知覚・運動系
知覚・運動まひ、書痙(しょけい)、痙性斜頸(けいせいしゃけい)、チック(「子どものチック」)など。
書痙とは、精神緊張によって手や指が一時的に硬直して、字が書けなくなることです。痙性斜頸は、精神緊張によって片方の頸部筋が硬直し続け、くびが反対側に傾斜することで、病変のある側の頸部筋に明らかな肥大がみられる場合もあります。
●内分泌系(ないぶんぴつけい)
甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)、糖尿病(とうにょうびょう)など。
●皮膚
アトピー性皮膚炎(せいひふえん)、じんま疹(しん)、円形脱毛症(えんけいだつもうしょう)など。
●その他
頭痛(とりわけ緊張型頭痛(きんちょうがたずつう))、めまい、睡眠障害(不眠症)など。
一般には身体疾患として扱われる病名が多くみられますが、患者さんの病歴を詳細にみると、日常生活における行動パターンや精神面の歪(ゆが)みが病気の発生と悪化に深く影響していると考えられるケースがあります。
こうしたさまざまな疾患は、精神疾患としての色彩が濃厚なもの、身体疾患としての色彩が濃厚なものという2群に大別できます。つまり、過換気症候群や心臓神経症など、組織病変をともなわない「機能性」の障害は精神疾患に近いものに、消化性潰瘍や狭心症など、組織病変をともなう「器質性」の障害は身体疾患に近いものに相当します。
狭い意味での心身症といえば、身体疾患に近いものをさす傾向があります。とくに、精神疾患に近いものでは、不安が身体症状をひきおこし、その身体症状がさらに不安を増すという神経症的な悪循環の構造がみられます。しかし、いずれにしても心身症とは、精神疾患にも身体疾患にも分類できない、一種のグレイゾーンに位置するといえます。
[原因]
心身症は、精神面の葛藤(かっとう)や歪みが抑圧され、身体的に表現されたものとして理解できますが、身体症状ばかりが目につき、その根底にある心理的なものが容易にはみえてこないということが、心身症一般に共通の特色です。
すなわち、心身症の人は、自己の精神的葛藤やストレス、あるいは身体的不調を自覚したり言語化したりするのが不得意であり、社会生活に対して過剰な適応状態にあるといわれています。
このような心理的特性をアレキシチミア(失感情症(しつかんじょうしょう)ないし失体感症(しつたいかんしょう))といいます。通常の人なら音(ね)をあげるようなストレス状況にあっても、不平ひとつもらすことなく、人一倍体力に自信があり、バイタリティーにあふれているといったタイプの人が、突然、狭心症や消化性潰瘍に倒れるというような場合が卑近(ひきん)な例です。
このように、自分自身のからだを顧みず、目的に向かって一直線に邁進(まいしん)する行動パターンはA型行動とも呼ばれ、自覚されないまま蓄積したストレスが自律神経系や内分泌系の失調を招きます。すなわち、消化性潰瘍に関していえば、胃酸(いさん)や副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンが過剰に分泌され、これらが胃や十二指腸の粘膜(ねんまく)に障害をおこすというメカニズムが考えられます。
[治療]
患者さんは自分の病気を純粋な身体疾患であると思いこんでいる場合が多いので、治療としては、まず身体面の治療を重視します。そして徐々に患者さん自身の内面に注意を促していきます。その結果、患者さんは自己の行動パターンや、さらに根本的な心理的葛藤や性格構造の異常を自覚し、それを正す契機とすることができるわけです。
これは、神経症やうつ病などの精神疾患に対する一般的な精神療法に準じたやり方ですが、アレキシチミアという心理特性を基盤にもつ心身症に対しては、このような言語的・内面的アプローチよりも非言語的・体験的アプローチのほうが有効であるとする考え方もあります。
これには、身体的緊張の自己コントロールを学習する自律訓練法、ストレス状況に実際に直面することを通して異常な身体反応を除去する系統的脱感作法(だつかんさほう)などの行動療法、あるいは症状をもったまま行動することの実践によって症状への執着を断つ森田療法などがありますが、緊張型頭痛、痙性斜頸、書痙などに対しては筋電図を用いながら筋緊張の自己コントロールを学習するバイオフィードバックという方法もあります。
また、これらの治療と並行して、緊張をやわらげ、気分をひきたてる目的で、抗不安薬や抗うつ薬などの向精神薬が用いられますが、眠け、口の渇き、便秘などの副作用が出る場合があるので注意が必要です。
出典 小学館家庭医学館について 情報
心身症
しんしんしょう
Psychosomatic disorder
(こころの病気)
「心身医学の新しい診療指針」(日本心身医学会教育研修委員会編、1991年)によると、心身症(精神身体症)とは「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」と規定されています。すなわち、心身症とは、病名ではなく身体疾患の病態を説明するひとつの概念なのです。
とくに、身体疾患の発症や経過に心身相関の機構(メカニズム)を介した心理社会的要因が強く関係し、その多くは心理社会的要因を治療の対象として扱うことが必要と考えられる病態です。基本的には心理社会的因子の影響を受けない病態は存在しないと考えられますが、とくにそれらの要因が強く影響していると考えられる身体疾患を心身症として扱います。そのため病名表記では、たとえば胃潰瘍(心身症)になります。心身症としてよくみられる疾患を表18に示します。
心身症になりやすい疾患の発症には、それぞれの疾患特有の原因が考えられます。なかでもストレスは、その発症や持続、慢性化の要因のひとつとして考えられていて、生物学的にはストレスが脳に作用して身体の機能や免疫などに影響することによって、関連するとされています。よく知られている主要なストレスを、ライフスタイルに応じて表19にあげました。
それぞれの疾患に応じた症状が現れます。心身症になりやすい人には、不安や緊張の強い人、あまり感情を表に出さず、自分のことを表現するのが苦手な人(アレキシサイミア:失感情症)が多いようです。
心身症を診断する特別な指標はありません。症状や疾患が発症したり悪化する前にストレスの関与が認められたり、仮説・想定したストレスを治療の対象として取り上げた場合に症状が改善していくことなどで診断しています。
基本的には、それぞれの疾患に応じた身体医学療法に、心理療法が併用されます。補助的に向精神薬が用いられることもあります。
一般的な身体医学療法では症状や疾患がコントロールできない、もしくは治らない時には、心身症を疑って専門医(心療内科)の診察を受けましょう。
石川 俊男
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
心身症 (しんしんしょう)
psychosomatic disease
身体的疾患ではあるが,その発生に社会-心理的因子が強く関与していると考えられるものをいう。その代表的なものに胃・十二指腸潰瘍,過敏性大腸炎,喘息(ぜんそく),高血圧,蕁麻疹(じんましん)などがある。心身症は一つの独立した病名ではない。また,上述のような種々の疾患が必ずしも社会-心理的因子とはかかわりなしに生じる場合もあり,その場合には心身症には含まれない。社会-心理的因子がある個人に情動的な持続的緊張をもたらし,自律神経系などの機能異常を生じ,身体の特定部位に器質病理的な変化が起こった場合が心身症で,これらの疾患はストレスによって身体の生理的な平衡(ホメオスタシス)に変化をきたした結果発病したものであるので,その治療にあたっては身体的治療とならんで心理的な治療(心身医学的治療)が重視される。なお,発病に心理的因子が深くかかわっている機能的な身体疾患を心身症に含めることがある。それは心理的な条件づけが主要な発現機序となっている疾患で,たとえば皮膚搔痒(そうよう)症,呑気症,神経性嘔吐などのような器質病理的変化を欠いているものである。きわめて広義には,〈心身相関〉という観点から,身体的疾患が存在するところに二次的に心理的因子が加わって症状の消長を左右する場合や,身体症状を強く示す神経症およびうつ病までを心身症とすることもある。しかし,これらは本来の心身症ではない。
心身症の発現には上記の精神生理的な病態が問題となるが,患者のパーソナリティの特徴も一方では注目される。心身症の人は社会的には過度の適応を示すことが多い。つねに現実にいかに対処すべきかに真剣で,健康人のように心的緊張を他に転換するすべを知らない。他者からみると非常に現実的で活動的であるので,社会的には重視され,そのためますます本人には重圧がかかり,過度の適応が要求される状況となる。その結果,ますます情動的な緊張は高まり病変を生じやすくなるのである。
心身症の身体症状は臨床各科の領域にわたるので,治療は対象各科で行われる。日本では心療内科を標榜して,心身医学的治療を専門に行う医師もいる。実際の治療は心身両面から行われるのが原則で,病変部位への身体医学的処置(たとえば潰瘍治療剤などの投与)と心理療法を行う。前述のように性格傾向が病変の発生に強くかかわっているので,精神分析や交流分析などを通じ自己の性格傾向を洞察させる。また,具体的に生活指導を行ったり,不安・緊張を軽減するため抗不安薬を投与したり,自律訓練法,行動療法などを行う。なお,心身症とされる疾患は多種多様であるが,前述の代表例のほか,神経性狭心症,神経性無食欲症,肥満,糖尿病,円形脱毛症,湿疹,眼瞼痙攣(けいれん),月経困難症,無月経,周期性嘔吐症,その他がある。
→心身医学
執筆者:永島 正紀+野上 芳美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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心身症
しんしんしょう
精神的な影響を強く受ける疾患の総称。いずれも心身医学の対象となるもので、神経症の研究に始まり、現在では臨床各科の疾患に広く及んでいる。
診断は面接によって行われるが、まず身体面についての診察と検査で器質的疾患を除く除外診断をしたうえで、家族などを含む生活歴や生活環境、患者自身の性格傾向、学校生活や結婚生活などを含む環境問題などについて聞き、続いて質問紙法などによる心理テスト、あるいはポリグラフによる心身両面の相関を調べる。
心身症患者は自己制御、すなわちセルフコントロールの能力を失っているので、これを回復させることが治療の基本となる。まず医師による簡易精神療法をはじめ、向精神薬による薬物療法や催眠療法などを行い、続いて自律訓練法を指導し、行動療法、バイオフィードバック法、交流分析などによってセルフコントロールができるようにする。また、森田療法や断食療法なども行われる。最後にはグループ・セラピー(集団療法)によって社会復帰に導いていく。
[下坂幸三]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
知恵蔵
「心身症」の解説
心身症
身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関係しているものを指し、特定の病気や症状ではない。例えば、胃・十二指腸潰瘍、過敏性大腸症候群、気管支ぜんそく、本態性高血圧症、心筋梗塞、偏頭痛など多数の疾患があげられ、その中に身体面の治療ばかりでなく、心身医学的な配慮が重要となる場合がある。バイオフィードバック(生体現象を音や光に変換し、自己制御を習得する)や、自律訓練法(自分でリラクセーションを体得する)などの治療法もある。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
心身症
しんしんしょう
psychosomatic diseases
身体症状を主とするが,心理的因子が大きく関与しているものを総括していう。精神身体医学が対象とする疾患。おもなものとして,消化性潰瘍,高血圧症,気管支喘息などがあげられる。治療には,精神分析や行動療法その他,精神療法が主として用いられる。心身症を主として扱う診療科を心療内科という。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
心身症
日常生活での様々なストレスによって身体の各部に症状が出ることがある。このような、心因性の原因により肉体的な症状の表れる疾患を、一般に心身症という。過敏性腸症候群やアレルギー、喘息、過換気症候群、じんましん、心臓神経症など。
出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
心身症
診断や治療にあたって心理的因子について特に配慮が必要な症状.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の心身症の言及
【息ぎれ】より
…軽症では短距離の駆足,階段昇降などに際して初めて息ぎれを感ずるが,より重症になると歩行でも息ぎれし,さらに重症では,会話,洗顔などで息ぎれを感ずるようになる。
[原因となる病気]
きわめて多数であるが,大別すると,吸気中の酸素欠乏,肺機能障害,呼吸筋麻痺,心内シャント,血液酸塩基平衡障害,中枢神経障害,心身症となる。吸気中の酸素欠乏は気圧の著しく低下する高地滞在,高空飛行などにみられる。…
【心身医学】より
…また,自己暗示から蕁麻疹(じんましん)や気管支喘息の生ずる場合のあることも知られている。このような病態は[心身症]と呼ばれている。 心身医学では,身体因子ばかりでなく,社会‐心理的因子をも考慮しつつ,心身一体となった人間を診療するという立場に立つ。…
【ストレス】より
…不適応におちいると上述の生理学的な反応系の作用によって,胃・十二指腸潰瘍,高血圧,ある種の糖尿病のような病気を生じる。このように心理的なストレスで身体疾患が生じた場合が[心身症]と呼ばれ,心身医学の対象となっている。また,この心理‐身体的な因果関係はいわゆる心身相関にかかわる主要な部分を占めている。…
※「心身症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」