最新 心理学事典 「ホーソン実験」の解説
ホーソンじっけん
ホーソン実験
Hawthorne experiment
当時隆盛であった科学的管理法の影響下で,室内の明るさを上げれば生産能率が高まるという仮説を実証するための照明実験が,1924年から同工場で行なわれた。しかし,2年半に及んだ実験からは,照明条件と作業量との間に規則的な対応関係を見いだすことができなかった。この実験に続いて,1927年には継電器組立作業実験が,1928年には電話部品に用いる雲母剝離作業実験が始まり,物理的な作業条件の変化が作業量に及ぼす影響が観察された。1928年にはハーバード大学のメイヨーMayo,E.G.が加わり,彼を中心に実験と調査が進められた。
しかし,これらの実験からは,物理的条件の変化と作業量の変化に規則的な関係は見いだせず,それよりも,自分たちの仕事ぶりが周囲から注目されているという意識や,作業を通じてお互いの間に生まれた連帯意識が,仕事への意欲すなわちモラールmoraleを高め,作業量の増加につながることが明らかにされた。このように,実験変数の直接的な効果ではなく,実験に参加し周囲から注目されているという意識が被験者の行動や成績に影響を与える現象は,後にホーソン効果Hawthorne effectとよばれるようになった。
これらの実験がもたらしたものは,生産性に及ぼす従業員の意識や感情,モラールの重要性であった。そこで,これまでの物理的諸条件の統制という研究方針を転換し,従業員のモラールを規定するものは何かを探ることに焦点が当てられ,工場内の従業員延べ2万1000名を対象に面接調査が行なわれた。その結果,仕事への意欲や感情は,日常生活や職場の人間関係に強く左右されること,職場の仲間意識や監督への感情が生産性に強く影響することが明らかにされた。こうした,従業員のもつ意識や感情や意欲に着目し,生産性に及ぼす職場の人間関係の重要性を説く考え方は,人間関係論human relations movementとよばれ,その後の従業員管理の思想や施策に大きな影響を与えた。
さらに,ワーナーWarner,W.L.の指導下で行なわれた,バンク巻線観察室実験とよばれる研究からは,職場には組織の制度に従う公式集団のほかに,自然発生的に形成されたルールや取り決めなどの集団規範に従う非公式集団が存在し,非公式集団の行動が生産性に強い影響力をもつことが明らかにされた。
ホーソン実験は,人びとの感情や人間関係という社会心理学的視点を経営に導入した点で,それまでの科学的管理法を主体とする労働観とは一線を画するものであり,後の産業社会学の成立へとつながった。しかし,その研究方法については,分析における論理性の不足,面接調査の中立性や客観性への疑問などが呈された。また,人間関係論的視点はメイヨーの解釈に強く依存するものであって,方法論に厳密さを欠いており,賃金が生産性に及ぼす効果を不当に軽視しているという批判もある。 →科学的管理法 →産業・組織心理学
〔角山 剛〕
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