尖閣ビデオ問題(読み)せんかくビデオもんだい

百科事典マイペディア 「尖閣ビデオ問題」の意味・わかりやすい解説

尖閣ビデオ問題【せんかくビデオもんだい】

2010年9月7日,沖縄県尖閣諸島の日本領海内で中国漁船が海上保安庁の二隻の巡視船(〈みずき〉〈よなくに〉)の退去命令を無視し,二隻に体当たりして逃走を図る事件が起きた。海上保安庁は,公務執行妨害罪容疑で中国漁船長を逮捕し取り調べのため石垣島海上保安部に連行,同船および船員も石垣島に回航され事情聴取を受けた(船長を除く船員は釈放帰国,同船も返還)。船長は那覇地検石垣支部に送検された。船長の送検・拘留をめぐって中国政府は日本に強硬な抗議を繰り返し,外交問題に発展,さまざまな対抗・報復措置を発動,中国国内でも反日デモが組織され,反日デモには「琉球奪還」という過激なスローガンを掲げるものまで現れた。9月24日那覇地方検察庁は船長を処分保留で釈放,25日未明帰国した(尖閣諸島中国漁船衝突事件)。事件をめぐる菅直人内閣の姿勢に批判が集まるなか,海上保安庁の現場撮影ビデオが存在することが国会でとりあげられが,政府は中国への外交上の配慮から全面公開を避け,11月1日,7分弱に編集されたビデオを衆参両院予算委員会で少数の与野党議員にのみ公開した。ところが,11月4日,44分に編集されたビデオがユーチューブ上で特定ハンドルネームによって公開され,翌日にはTVの全国放送でくりかえし放映されることになった。ビデオを公開したのは,政府の一連の対応に不満をもち,全国民が事実を知るべきであるとした一海上保安官で,11月10日,自ら名乗り出たが,ビデオの機密性は低いと判断され逮捕されず,国家公務員法違反で書類送検され,2011年1月起訴猶予となった。海上保安官は退職した。しかしこのビデオ流出をめぐって,その行為を英雄視する意見がある一方,映像の責任主体でも権利主体でもない人物が勝手に映像を流出させたきわめて無責任で軽薄な行為という批判もあり,さらにはそれを無批判に全国放映しつづけた既存メディアに対する疑問も出されている。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

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