日本大百科全書(ニッポニカ) 「尹文子」の意味・わかりやすい解説
尹文子
いんぶんし
中国、戦国時代中期、斉(せい)の都、臨淄(りんし)におこった「稷下(しょくか)の学」の学士の一人。または尹文が著した書。班固(はんこ)『漢書(かんじょ)』芸文志(げいもんし)の名家(めいか)の項に、『尹文子』1編が記録されているが、現存しない。現行本『尹文子』2巻は、魏晋(ぎしん)のころの偽作。『荘子(そうじ)』天下編の記述によれば、尹文は宋(そうけい)とともに、道家(どうか)的な立場から、禁攻寝兵すなわち停戦和平の論を唱えたようである。後世、尹文が名家に列せられるのは、彼が道家風の正名説を主張したことによるものと思われる。郭沫若(かくまつじゃく)は、『管子(かんし)』中の心術上・下編、白心編、内業編をもって宋・尹文学派の文献とする画期的見解を提出した。この見解に従うなら、尹文子の遺説は白心編に伝えられていることになる。
[伊東倫厚 2015年12月14日]