尾張国郡司百姓等解(読み)おわりのくにぐんじひゃくせいらげ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「尾張国郡司百姓等解」の意味・わかりやすい解説

尾張国郡司百姓等解
おわりのくにぐんじひゃくせいらげ

988年(永延2)11月8日付けで尾張国(愛知県西部)の郡司百姓らが国守藤原元命(ふじわらのもとなが)の非法(ひほう)、横法(おうほう)を朝廷に訴え、その解任を要求した31か条よりなる文書で、尾張国解文(げぶみ)、尾張国申文(もうしぶみ)ともいう。和風漢文の四六駢儷体(しろくべんれいたい)を用いたかなりの名文で、実際に郡司、百姓らの手になるものか疑問視され、京都の学者、官人の作文かともいわれるが、僧侶(そうりょ)の作文とみられなくもない。幾種類かの写本が現存するが、主要なものは、1281年(弘安4)書写早稲田(わせだ)大学蔵本、1311年(応長1)書写の東京大学蔵本、25年(正中2)書写の真福寺宝生院(しんぷくじほうしょういん)蔵本、53年(文和2)書写本に基づく改訂史籍集覧本などである。

 訴えの内容は多岐にわたるが、規定より多くの正税(しょうぜい)、官物(かんもつ)を徴収する、絹、生糸、布などの買上げ価格が不当に低い、正税帳などの帳簿虚偽の記載をしている、駅(うまや)の費用を適正に支出しない、池溝(ちこう)修理料や救急料を支出しない、子弟、郎等を使者として郡郷に入れ、種々の名目で雑物(ぞうもつ)を徴収する、官物の残りを京都の私宅に運ばせる、国衙(こくが)の官人の給与を支払わない、国分尼寺(こくぶんにじ)の修理料を支出しない、郡司、百姓らの訴えに耳をかさない、百姓を使役して多くの佃(つくだ)を経営している、自分に都合の悪い国の法令を公布しないなど、信じがたいほどの非法、横法の限りを尽くしているという。当時の地方政治のようすをうかがう貴重な史料である。藤原元命は、翌989年(永祚1)4月5日の除目(じもく)で解任された。

阿部 猛]

『阿部猛著『尾張国解文の研究』(1971・大原新生社)』『阿部猛著『摂関政治』(教育社歴史新書)』


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