尿道損傷(読み)にょうどうそんしょう(その他表記)Urethral injury

六訂版 家庭医学大全科 「尿道損傷」の解説

尿道損傷
にょうどうそんしょう
Urethral injury
(外傷)

どんな外傷か

 女性ではまれですが、男性では多く発生し、泌尿器外傷の約50%にみられるとされています。部位によって、前部尿道損傷(球部、振子部)、後部尿道損傷(膜様部)に分けられています。

 このうち球部尿道損傷は騎乗型(きじょうがた)損傷とも呼ばれ、落下時など股間を強く打撲(だぼく)した際に恥骨(ちこつ)と挟まれて裂傷を負うもので、最も多くみられる尿道損傷です。後部尿道損傷は、大部分骨盤骨折に起因するものです。

原因は何か

 交通事故、労働災害でみられます。泌尿器科で行われる、尿道を経由した内視鏡手術やカテーテルの操作時に損傷することも多いとされています。

症状の現れ方

 前部尿道損傷では、尿道からの出血会陰(えいん)部および陰嚢(いんのう)部の皮下出血排尿困難がみられます。

 後部尿道損傷では、尿道出血は少量で、肛門周囲に皮下出血班がみられます。また、静脈が豊富な部位のため、出血が大量になりやすいのが特徴です。

検査と診断

 尿道から造影剤を注入すると、前部尿道損傷では、症状で述べた皮下出血の分布と同様に、造影剤が会陰部、陰嚢部に広がります。

 後部尿道損傷では、膀胱周囲に同様の広がりがみられます。

治療の方法

 損傷が起こった直後は、カテーテルの挿入や内視鏡の使用は、損傷を増大させることがあるため行いません。まず下腹部で膀胱に針を刺し、尿を体外に導く路を確保します。前部尿道損傷の軽度のもので、尿道カテーテルの挿入が可能な場合では、カテーテル留置のみでの治癒が可能です。

 その他の症例では外科手術が必要になります。術後の合併症として、尿道狭窄(きょうさく)尿失禁勃起(ぼっき)障害などがあります。

応急処置はどうするか

 泌尿器科専門医の診察を受けることをすすめます。

出口 修宏

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「尿道損傷」の解説

にょうどうそんしょう【尿道損傷 Urethral Injury】

[どんな病気か]
 骨盤骨折(こつばんこっせつ)にともなっておこる後部尿道(体内)損傷と、転落などして、かたいものをまたぐようにして股間(こかん)(会陰部(えいんぶ))を強打した際の前部尿道損傷に分けられます。
 尿道の解剖学的位置、長さなどから、男性に多くみられる損傷です。
[症状]
 尿道からの出血、排尿困難がおもな症状です。骨盤骨折にともなって尿道が断裂(完全断裂)してしまうと、尿がまったく出ない尿閉(にょうへい)という状態になります。
 また、会陰部の打撲(だぼく)による尿道損傷では、会陰部から陰嚢(いんのう)にかけての広い範囲にわたって皮下血腫(ひかけっしゅ)(皮膚の下にできた内出血による血のかたまり)がみられます。
[検査と診断]
 単純X線撮影で骨盤骨折の有無を確認してから、尿道に造影剤を注入してX線撮影し、損傷部位と程度を確かめます。
[治療]
 軽い損傷なら、安静と抗生物質の服用だけでようすをみることもありますが、多くの場合、尿道にカテーテルを2~3週間入れたまま導尿して、尿道を保護します。
 損傷の程度がひどい場合は、カテーテルが挿入できないので、当初は体外に尿を導くため膀胱瘻(ぼうこうろう)をつくり、時期を待って尿道の再建手術が行なわれます。また、治癒(ちゆ)した尿道の傷が盛り上がったりして尿道狭窄(にょうどうきょうさく)がおこりやすく、その場合は尿道拡張が必要になります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「尿道損傷」の意味・わかりやすい解説

尿道損傷
にょうどうそんしょう

尿道を後部と前部に分けると、後部尿道の損傷は、骨盤骨折や高所からの落下で会陰(えいん)部を強打したときに発生する。むろん男性がほとんどである。尿道膜様部と前立腺(せん)部との接合部で破れるか断裂する場合がもっとも多い。受傷直後に尿道口から血液の排出をみたら、尿道損傷を考え、絶対に排尿を試みさせたりしてはならない。カテーテルを挿入する前に、まず尿道に造影剤を注入してX線撮影を行い、損傷の部位と程度を確認する。尿道が完全に断裂したときは、造影剤は膀胱(ぼうこう)内へは到達しない。骨盤腔(くう)内に多量の出血がおこり、排尿はできない状態なので、ただちに手術を要する。部分断裂の場合には、細いカテーテルが膀胱内に無理なく挿入できれば、それを留置しておけば治癒する。

 前部尿道の損傷も、後部尿道の場合と同じ機序でおこるが、カテーテルや膀胱鏡などの挿入時にもおこりうるので、これらの操作には十分な注意を要する。

 尿道損傷の治癒後は、多かれ少なかれ尿道狭窄(きょうさく)を合併するので、細い棒状の尿道ブジー(消息子)を挿入して拡張するが、尿道再建術が必要となる場合もある。

[松下一男]

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