日本大百科全書(ニッポニカ) 「屠呦呦」の意味・わかりやすい解説
屠呦呦
とゆうゆう / トゥヨウヨウ
Tu Youyou
(1930― )
中国の女性医学者、薬学者。浙江(せっこう/チョーチヤン)省寧波(ニンポー)市生まれ。1955年北京(ペキン)大学医学院薬学科を卒業。伝統的な中国医学を学んだあと、北京の中国中医研究院(現、中国中医科学院)の研究者となる。2001年博士課程のアドバイザーとなり、現在は同科学院の主席研究員である。
1960年代、ベトナム戦争に従軍した中国軍兵士や中国南部の住民がマラリアに感染して多くの死者を出していたため、当時の毛沢東(もうたくとう/マオツォートン)主席が新薬開発の研究チームを創設して治療法の開発に取り組ませた。屠は1969年この研究チームのリーダーになり、中国の漢方医学の文献を詳細に調べながらマラリアに効く薬剤や成分の研究を行った。1971年までに研究チームは200種の薬草から約380の抽出物を取り出し、動物の体内に入ったマラリア原虫の活動を抑制する物質の探索に取り組んだ。1972年に屠らの研究グループは、中国の古典医学書にヒントを得て、キク科ヨモギ属のクソニンジンArtemisia annua L.からマラリア原虫の活動を抑えるアーテミシニン(アルテミシニン)artemisinin(中国名:青蒿素(チンハオス))をエーテルを用い分離抽出し、初めて化学構造を明らかにした。アーテミシニンとその誘導体ジヒドロアルテミシニンの発見は、マラリア治療に大きく貢献した。この業績で屠は、2011年グラクソ・スミスクライン特別業績賞、ラスカー賞(臨床医学研究賞)を受賞。2015年に「マラリアに対する新たな治療法に関する発見」でノーベル医学生理学賞を受賞した。
[馬場錬成 2016年5月19日]