日本大百科全書(ニッポニカ) 「マラリア原虫」の意味・わかりやすい解説
マラリア原虫
まらりあげんちゅう
malarial parasites
[学] Plasmodium
アピコンプレックス門・胞子虫綱・コクシジウム亜綱・真コクシジウム目・住血胞子虫亜目に属する一群の単細胞動物(原生動物)で、宿主特異性の高い固有種がヒト、サル、ネズミ、鳥類に寄生してマラリアの病原となる。ヒトには三日熱マラリア原虫P. vivax、四日熱マラリア原虫P. malariae、卵型マラリア原虫(らんけいまらりあげんちゅう)P. ovale、熱帯熱マラリア原虫P. falciparumの4種のヒトマラリア原虫と、きわめてまれにサルマラリア原虫の特定種が感染する。これらの原虫の生活史は複雑であるが、ヒトの肝細胞内と赤血球内では無性生殖(多数分裂)を行い、媒介昆虫のハマダラカ体内では有性生殖(胞子形成)と無性生殖を営むため、動物学的にはヒトは中間宿主、カは終宿主となる。
感染は、媒介するカの刺咬(しこう)(吸血)時に唾液腺(だえきせん)内のスポロゾイト(胞子小体)が注入されて成立する。このスポロゾイトは血行性に肝細胞に達し、無性的な増殖による赤外(赤血球外)型発育を1、2回繰り返すと初めて赤血球に侵入可能な赤外期のメロゾイト(分裂小体)となり、一定周期の無性的な赤内(赤血球内)型発育を反復するごとに赤血球を破壊する。すなわち、赤外型発育によって形成された多数のメロゾイトの一部は、ふたたび他の肝細胞に入ってメロゾイト形成を繰り返すが、他の大多数は赤血球内に侵入して赤内型発育を行い、その中で多数のメロゾイトを形成する。やがてこれらは赤血球を破壊して血中に出て、それぞれ新赤血球に侵入して同様の増殖を繰り返す。この赤血球破壊時に宿主は40℃以上の高熱を発する。また、この増殖周期は原虫の種類によって異なり、診断上重要視される。なお、三日熱・卵型マラリア原虫の赤外型は、赤内型出現後も第二次赤外型を形成して前述のように肝細胞内に長期間残留するが、熱帯熱ならびに四日熱マラリア原虫にはこの発育環はみられない。なお、近年スポロゾイトが肝細胞内に侵入したとき、そこで休眠するもののあることが知られ、ヒプノゾイト(休眠原虫)というが、これらが三日熱や卵型マラリアにみられる再発の原因となる発育段階であると考えられるようになっている。
前述の無性的な赤内型発育を繰り返すうちにメロゾイトの一部は有性生殖期に入り、赤血球内でガメートサイト(生殖母体)に移行する。このガメートサイトがハマダラカの吸血によって摂取されると、その消化管内で雌雄のガメート(生殖体)になり、両者が合体してザイゴート(受精体)、さらに運動性を有するオーキネート(虫様体)になる。このオーキネートは中腸壁を穿通(せんつう)し、漿膜(しょうまく)下に定着してオーシスト(胞嚢体(ほうのうたい))に発育し、内部に多数のスポロゾイトを形成するが、やがてオーシストが破れると、体腔(たいこう)に放出されたスポロゾイトはカの唾液腺に移行し、そこで発育して感染性を有するようになる。
なお、マラリア原虫は、ヒトを含めた哺乳(ほにゅう)類、鳥類、爬虫(はちゅう)類などを中間宿主に、カ類(ハマダラカ属Anophelesやイエカ属Culexなど)を終宿主として、前述のような複雑な生活史をたどるが、ヒト以外の動物を中間宿主とするマラリア原虫には、サルのP. cynomolgiやP. inui、ネズミのP. berghei、ニワトリのP. gallinaceumやP. juxtanucleareなどがみられる。
[大友弘士・小山 力]