日本大百科全書(ニッポニカ) 「島嶼防衛」の意味・わかりやすい解説
島嶼防衛
とうしょぼうえい
島嶼への侵攻に備えて警戒監視を行い、攻撃を受けた場合は陸・海・空軍が一体となって防衛奪回作戦を行うこと。
島嶼防衛には継続的な情報収集、警戒監視、偵察行動が欠かせない。本土を含め6852島を有する日本における島嶼防衛では、陸上自衛隊の沿岸監視部隊、海上自衛隊の対潜哨戒(しょうかい)機、護衛艦、警備所、航空自衛隊のレーダーサイト、早期警戒管制機等により、24時間体制で警戒監視を実施している。
「制空権なければ制海権なし。制海権なければ上陸作戦なし」といわれるように、敵の着上陸を阻止する島嶼防衛にとって制空権の確保は重要である。戦闘機や爆撃機だけではなく、攻撃能力を支える偵察航空隊や空中給油機の増強がポイントになる。
また、占領を阻止するほうが、占領された島を奪還するより損害は少ない。したがって、侵攻が予想される地域に、島嶼防衛部隊を事前に機動・展開し、侵攻部隊の接近・上陸を阻止する。海上優勢、航空優勢の確保が困難になった場合は、敵の攻撃兵器の射程外から、ミサイルや無人機で侵攻部隊を攻撃して接近・上陸を阻止する。
占領された場合は、航空機や艦艇による対地攻撃により敵を制圧したのち、水陸両用部隊を着上陸させて奪回する。狭隘(きょうあい)な島嶼は島外からの補給がなければ占領を維持できない。
東シナ海の島嶼をめぐる日中間の対立が深刻化した結果、日本は南西諸島の陸海空戦力を強化し、新型護衛艦や早期警戒機を増強している。また、最西端の島である与那国(よなぐに)島に航空警戒管制部隊や沿岸監視隊を展開し、その他の島嶼にも警備部隊を配備した。
敵の侵攻部隊を攻撃する能力も強化され、地対空誘導弾部隊と地対艦誘導弾部隊を南西諸島に展開した。誘導弾の長射程化も進められている。敵に占領された島嶼を奪還する水陸機動団も増強された。北海道や東北方面に配備されている兵力を、島嶼防衛を支援するために南西方面に移動する訓練も実施されるようになった。
なお、戦闘によって被害を受けることが予想される島嶼の住民を戦闘地域外へ避難させる方策も必要になる。そのために必要な艦船や航空機など、民間の資産を動員する法的枠組みも平時に整備されていなければならない。
他方、米中対立が深刻化するなかで、中国は米軍に対して東シナ海や西太平洋で米軍を攻撃する「接近阻止・領域拒否(A2AD:Anti Access Area Denial)」戦略を強化している。日本の南西諸島は中国のA2AD作戦の戦場になる可能性がある。A2ADに対して、アメリカは中国のミサイル攻撃の射程内に、迅速に移動できる海兵隊の前進基地を設置し、地対空誘導弾と地対艦誘導弾で中国軍を攻撃し、A2ADを無力化する戦略を進めている(EABO:Expeditionary Advanced Base Operations、機動展開前進基地作戦)。このアメリカ海兵隊の前進基地として日本の南西諸島は重要な役割を果たす。
日本の島嶼防衛は日本の主権の問題であると同時に、米中の西太平洋における軍事バランスと軍事作戦に大きな影響を与えることになる。
[村井友秀 2022年11月17日]