日本大百科全書(ニッポニカ) 「工業用テレビジョン」の意味・わかりやすい解説
工業用テレビジョン
こうぎょうようてれびじょん
industrial television
不特定多数の視聴者を相手にする放送とは異なり、ある特定の目的のためにテレビジョンの機能を活用するシステム。略称ITV。産業用テレビジョンや閉回路テレビジョン(CCTV:closed circuit television)などの名称でもよばれる。そのシステムは、ビジコンのような小型撮像管あるいは固体撮像素子を用いたテレビカメラ、受像機および同軸ケーブルで構成される。映像信号を直接送る場合が多いが、伝送路の途中に海、河川、広い道路などがある場合、伝送距離が非常に長い場合、また多チャンネルの信号を送る必要がある場合などでは、カメラの出力信号を変調したり、一部の伝送路に無線伝送を採用したりすることもある。無線伝送は使用周波数上の制限や免許を必要とするため、光通信も行われている。工業用テレビジョンで使用される映像信号の帯域幅は狭帯域で1メガヘルツ以下の場合も多いが、とくに広帯域を要するときは10メガヘルツ以上の場合もある。走査線数はアナログ時代の放送用テレビジョンと同じく525本を採用するもののほか、目的によってあまり解像度を要求しない場合は200本以下が使用されることもある。
使用機器のなかでとくにカメラが重要である。放送用とは異なり、操作を人が行うことは少なく、もっぱら自動制御や遠隔操作が行われる。設置場所も屋外の風雨にさらされる場所、種々の炉などのように高温の場所、粉炭、塵埃(じんあい)などの多い工場や作業場、移動物体に搭載する場合のように振動、加速度が加わる場所など過酷な条件下で使われることが多い。そのため特殊なカバーや特殊な構造のケースに収められているものもある。
現在のおもな用途には、(1)工場や発電所などでの生産管理、各種炉内監視、災害防止、(2)デパート、ホテルなどにおける商品や各種催し物の紹介、(3)駅、駐車場における人や車両の監視、(4)空港、銀行、デパート、盛り場などでの犯罪防止用監視カメラ、(5)自動車ナンバー自動読取り装置(Nシステム)などの交通管制、(6)学校放送や教育、(7)医学、天文学などの科学分野、(8)家庭用ドアカメラ、などがある。工業用テレビジョンの利用範囲は今後さらに拡大することが予想される。
[金木利之・吉川昭吉郎]