改訂新版 世界大百科事典 「年金スライド制」の意味・わかりやすい解説
年金スライド制 (ねんきんスライドせい)
あらかじめ指定した経済指標の変動に連動させて,年金額を自動的に改定していくこと。代表的な方法は,まず基準となる経済指標の数値を定め,この指標が定められた期日から一定期間が経過した後に,あらかじめ定められた幅を超える変動を示したとき,法律や規約等の改正を行わずに年金額をこの経済指標の変動幅に応じて改定するというものである。この場合に用いられる代表的な経済指標は,消費者物価指数と賃金指数である。前者の指数をとる場合を,〈物価スライド〉,後者の指数をとる場合を〈賃金スライド〉という。
厚生年金保険をはじめとする日本の公的年金制度では,1973年の改正で全国消費者物価指数に基づく〈物価スライド制〉が導入された。当初は全国消費者物価指数の年度中の平均値が前年度中の平均値を5%を超えて変動した場合に,その変動率を基準として翌年の11月以降の年金額を改定することになっていた。その後,1985年および1989年の改正によって,全国消費者物価指数の年間平均値が前年の平均値に比べて少しでも変動した場合には,その変動率に応じて翌年の4月以降の年金額を改定することになっている。
なお,日本の公的年金制度では,少なくとも5年ごとに年金財政の見直しが行われているが,このとき同時に給付水準の見直しが行われ,それまでの標準報酬の上昇に応じた年金額の改定が行われてきた。その結果,長期的に見ると,年金の実質価値は〈賃金スライド〉の場合とほぼ同様に維持されてきた。しかし,1994年の改正時に,今後は名目所得から税および社会保険料を除いた可処分所得の上昇に応じて給付水準を見直していくことが明らかにされた。これは〈可処分所得スライド〉と同じ効果を持つことになる。
執筆者:田村 正雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報