日本大百科全書(ニッポニカ) 「強制監査」の意味・わかりやすい解説
強制監査
きょうせいかんさ
compulsory audit
法令などにより監査(おもに財務諸表監査)が義務づけられている監査形態。任意監査に対比される。一般に公認会計士などの職業監査人が任にあたる。アメリカで、1929年の大恐慌をきっかけとして1933年証券法、1934年証券取引所法により上場会社などの公開会社に公認会計士監査が強制されたことに端を発する。その後、ドイツでは1937年株式法により、イギリスでは1948年会社法により、株式会社に対する会計士監査が義務づけられた。
日本では、アメリカの証券諸法を範として1948年(昭和23)に証券取引法(現、金融商品取引法)に基づく公認会計士(または監査法人)の監査が規定され、1951年より上場会社などに実施された。また、1974年「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(商法特例法)により、会計監査人(公認会計士または監査法人)の監査が一定規模以上の大会社に対して実施された。2006年(平成18)5月、従来の商法第2編や商法特例法など会社に関する法律を統合した会社法が施行され、現在は同法により、資本金が5億円以上、または負債金額が200億円以上の大会社は会計監査人の監査が強制されている(会社法328条)。なお、会社法では、大会社以外の株式会社も、定款で会計監査人の設置を定めることができることになった(同法326条2項)。このほか、国または地方公共団体から経常的経費につき補助金を受ける学校法人にも公認会計士の監査が義務づけられている(私立学校振興助成法14条)。労働組合は、会計報告につき公認会計士の監査を受け、組合員に公表しなければならない(労働組合法5条)。ほかに、法律により強制されている監査には、政党助成法に基づく政党交付金による支出などの報告書の監査、保険相互会社の監査、信用金庫および信用組合の監査、農林中央金庫・労働金庫の監査、特定目的会社の監査、投資法人の監査、独立行政法人の監査、国立大学法人の監査、地方公共団体の包括外部監査、社会福祉法人の監査、医療法人の監査などがある。
[長谷川哲嘉・中村義人 2022年11月17日]