企業の経営活動に関して作成された会計記録について,それに関与していない独立の第三者が厳正公平な立場から分析的に検討を加え,それが適正か否かについての批判的意見を表明することをいう。会計監査の対象は会計記録であり,業務一般が対象である業務監査と区別される。会計監査は,会計の行われるところなら実施されるべきであり,非営利事業や国または公共団体にも行われる。会計検査院による政府の,また監査委員による地方公共団体の会計検査も広義の会計監査に含まれるが,それが財政の監督という目的で行われるため狭義の会計監査と区別される。通常,会計監査は民間企業の会計監査をさしている。企業の会計記録とは会計帳簿はもちろんのこと,その基となる証拠書類やその結果である貸借対照表や損益計算書等の財務諸表を含む広い概念である。
会計監査は独立かつ公正な立場でなされなければならないから,会計記録に関与していない第三者によって行われなければならない。この第三者には企業内における第三者と企業外における第三者とがあり,前者には企業の内部監査課や監査役などがあり,後者には公認会計士と監査法人(5名以上の公認会計士によって共同で設立された法人。会計監査人は公認会計士・監査法人のいずれかでなければならない)がある。前者による監査を内部監査といい,後者による監査を外部監査という。前者は経営管理の目的や商法の要請により行われる(商法上は監査役の職務権限である)もので,ふつう,会計監査とは後者の外部監査をさしている。
会計監査の歴史はイギリスにおいて始まり,その目的は会計上の不正誤謬の摘発または防止にあった。そのため会計記録の全部を精細に吟味,検討する監査が行われた。次いでアメリカでは銀行等の債権者のために信用能力の判定資料の提供の目的で監査が行われたが,これは一部に試査をとり入れた安全性吟味の監査であった。今日の監査は財務諸表監査ともよばれるように,その目的は財務諸表の適否に関する意見を表明することである。株主や債権者等の企業をとりまく利害関係者の保護に重点が置かれ,財務諸表全般を監査の対象としている。
当初の監査がすべての会計記録の検証を行ったのに対して,今日の監査は試査という技法を採用し,すべての会計記録の検証は行わない。企業の財政状態や経営成績に重大な影響を与える誤謬や慣習的方法や会計原則適用における継続性の吟味に監査の重点が置かれている。現在の監査がすべての会計記録の検証を行わないのは,被監査会社の内部統制組織の整備を前提としているためである。すなわち企業の会計組織が会計上の不正・誤謬を発生させないしくみになっていれば,監査の重点もそれ以外の点に置かれることになる。したがって被監査会社の内部統制組織の吟味が非常に重大な意味を持つことになる。内部統制組織がよく整備運用されている場合には,試査の範囲を縮小することができるが,その組織が完全でなく,その効果が十分に認められない場合には,その程度に応じて,試査の範囲を拡大しなければならない。監査人(個人,法人等を問わず監査を実施する人)は監査の結果として,監査の概要と監査の意見を記載した監査報告書を企業に提出する。この監査報告書は,企業の外部利害関係者に対して財務諸表の信頼性の程度を明らかにする資料になる。
このような財務諸表監査は,法令によって強制的に必要とされる法定監査(強制監査)と,企業の任意的な依頼によって行われる任意監査とに区別される。証券取引所に株式を上場し,または上場しようとする株式会社等に対して行われる証券取引法による監査や,資本金5億円以上または負債総額が200億円以上の株式会社等に対して行われる商法上の監査が法定監査の代表的なものである(これらはいずれも会計監査人による監査が必要)。そのほか営利法人の任意監査,宗教法人,農業協同組合,公益法人等非営利法人の監査,公社・公団等公共企業体の監査も実施され,社会的要請に基づき,対象範囲が広がっている。
執筆者:朝岡 寛彰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
企業の財務諸表が適正かどうかを判断するために行われる監査。経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況を適正に表示しているかどうかについて、監査人が入手した監査証拠に基づいて判断した結果を監査意見として表明する。
会計監査は、精密監査→貸借対照表監査→財務諸表監査という経過を経て発展してきた。
(1)精密監査 イギリスにおいて古くから発達した監査であり、事業年度中の会計記録および会計行為のすべてを綿密に吟味するもので、金銭や物品の私消などの不正を摘発することを目的とする監視的な監査である。
(2)貸借対照表監査(信用監査) 融資を受けようとする企業が、弁済能力に関する資料として金融機関に提出する貸借対照表について、その信頼性を監査するもの。1920年ごろのアメリカでは、信用経済の発達によって銀行融資を受ける企業が多数あった。短期信用供与者としての銀行の関心事は、企業の収益力の大小よりも、むしろその担保力にあった。企業の支払い能力や安全性についてはもっぱら貸借対照表により判定されたので、銀行は融資先に対し、職業監査人の監査証明を受けた貸借対照表の提出を求めた。
(3)財務諸表監査 1929年の世界恐慌による多数の企業倒産と当時の証券市場問題は、損益計算書も含めた「財務諸表監査」の必要性をアメリカ社会に強く認識させた。1933年の証券法、1934年の証券取引所法は、公益および投資家保護を目的として、公認会計士による上場企業などの監査を強制的に行うことにした。この監査が財務諸表監査であり、ここでは、粉飾決算の発見、防止が中心課題となり、不正の摘発は二次的となる。日本では、1948年(昭和23)制定の証券取引法(現、金融商品取引法)でこの監査が制度化され、1951年に初の公認会計士監査が開始された。
[中村義人 2022年11月17日]
(小山明宏 学習院大学教授 / 2007年)
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…企業会計は,このように多種類の企業関係者にとって必要な会計情報は何かを識別したうえで,会計固有の記録・計算の技術たる簿記,原価計算等を用いて企業経営活動等を会計情報として測定して,各種の開示手段を用いて伝達し,利用者の意思決定に役立たしめる。会計学は,企業会計の目的,職能,測定・伝達の原理,会計情報の性格,情報の信頼性を保証する会計監査,情報の分析・利用法等の諸問題を,固有の論理をもって研究し,体系化することを課題とする。研究対象となる企業の会計は主として営利企業すなわち株式会社やその集団などであるが,必要に応じて,学校法人,医療法人,団体等非営利企業の会計をも取り扱う。…
…監査とくに企業の会計監査が職業的専門家によって行われるについては,賦与された権限と関係者の信頼とにこたえるだけの要件が具備されねばならない。職業的監査人(公認会計士など)は,財務諸表の監査を行うにあたり,監査実務上公正妥当と認められる原則に従うこと,および監査報告書においてその原則に従って監査を行った旨を表明することを職業的責務としている。…
…監査役制度はおもにヨーロッパ大陸で発達したものである。イギリス,アメリカでは,取締役会が業務監査を行い,会計監査は外部の会計専門家に行わせ,とくに監査役という制度は発達させてこなかった。しかし最近は,アメリカでも取締役会内部に外部取締役で構成する監査委員会を設けるようになり,またイギリスもEC加盟に伴い事情が変わりつつある。…
…労働組合運動の指導的立場にあって,組合業務の執行について協議,決定を行い,それを実行する者をいう。日本では通常,執行委員長,副執行委員長,書記長,執行委員および会計監査を指す。会計監査を除く組合役員は執行委員会を構成し,執行委員長,副執行委員長,書記長は組合三役と呼ばれる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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