板ガラスに熱的あるいは化学的処理をほどこし,表面に圧縮応力層を作ったものをいう。ガラスの破壊は,その表面に存在する〈グリフィスのきずGriffith flaw〉と呼ばれる微細なきずが引張応力によって成長していくことによって起こる。したがって,表面層に圧縮応力層を作っておけば,ガラスがある程度の応力下におかれても,表面応力は圧縮状態に保たれ,破壊に至らない。熱的に圧縮応力層を作る方法は,風冷強化あるいは物理強化と呼ばれ,ガラスを軟化温度近くに加熱しておき,両面に空気ジェットを吹き付けることによって行う。すなわち,表面を冷却すると,表面と内部との温度差によって表面には引張応力,内部には圧縮応力が発生するが,ガラスが高温にあるときにはこの応力はすぐ緩和される。この温度差を保ったまま室温にまで温度を下げると,内部が遅れて収縮するとき,表面に圧縮応力がかかる。この方法によって強化できる板ガラスは厚さが5mm程度以上のもので,大きさは3.0m×2.4mのものまで実用化されている。用途は主として自動車用ガラスである。化学強化は,イオン交換によって行う方法が実用化されている。ガラス中にはNa⁺イオンが存在しているから,硝酸カリウム溶融塩と接触させるとガラスの表面付近でNa⁺(ガラス)+K⁺(溶融塩)⇄K⁺(ガラス)+Na⁺(溶融塩)の反応が起きる。この際,K⁺イオンはNa⁺イオンよりも大きいため,ガラスの表面に圧縮応力層を作る。この方法で得られる強化ガラスの性能はすぐれたものではあるが,大きなものを作製することが困難で,眼鏡用ガラス,時計のカバーガラスといった比較的小さいものが実用化されている。
執筆者:安井 至
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
焼入れや表面処理などの方法で板ガラスやコップなどの強度を数倍に増大したガラス。ガラスの理論強度は1平方センチメートル当り20万キログラム程度と考えられるが、現実にはその数百分の1の強度しかないのは、手や布などのほかの物質に軽く触れただけで表面にマイクロメートル(1000分の1ミリメートル)程度の傷が無数にできるためである。焼入れ(物理強化)やイオン交換(化学強化)は、ガラスの表面層に傷口を閉じようとする圧縮応力層をつくる強化法である。前者は薄いガラスには不向きであり、後者はアルカリを含まないガラスには不向きである。このほか表面の摩擦を減らして傷の発生を抑える表面処理法もあるが永続性がない。自動車・建築物の窓ガラスやコップの一部には物理強化ガラスが、携帯用ディスプレー、時計、磁気ディスク、瓶などの一部には化学強化ガラスが使われている。
[境野照雄・伊藤節郎]
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表面に圧縮応力層をもち,曲げ強さ,衝撃強さとも通常のガラスに比べて大きいガラス.普通板ガラスに加熱・急冷を加えることにより耐熱強度や耐衝撃強度を上げている.表面の圧縮圧力は約1400 kg cm-2,ガラス中心部の引張応力は約700 kg cm-2 程度で,このため,破壊すると無数の粒状になって安全性が高い.ガラスを軟化点近い温度に保ってから表面を急冷して圧縮ひずみを入れる.交通機関の窓ガラス,食器などに利用されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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