動物体のすべての細胞に,外界から取り入れた栄養素と酸素をあまねく分配する一方,そこに生じた老廃物と炭酸ガスを,逆に外界に放出するためにもれなく回収する,そのような器官系をさす。都市構造にたとえると,給水用の上水道と排水用の下水道を合わせたようなものであるが,この給排水の施設が都市化とともにしだいに統合整備されてくるように,動物体内におけるこのような物質の分配・回収の営みも,体制の進化にともなって一つの器官系で行われるようになる。これが循環系である。
原始的な体制の,例えばヒドラのような腔腸動物では,すべての細胞が外界またはその湾入した原腸腔に面して排列するので,ここでの物質の授受は個々の細胞とそうした外界との間で直接営まれ,したがってこの段階では,循環系の形成は見られない。これに対し,より体制分化の進んだ高等動物では,感覚・運動機能の発達にともない,とくに大量のカロリーを必要とする神経および筋肉組織を養ってゆくために,ここでは栄養を吸収する腸管系と,そこに生じた老廃物を尿の形で排泄する腎管系が,いわば入出の運河系として造られ,さらに酸素と炭酸ガスを交換する専門の呼吸器が,外界またはその入江に面して特別に造られるのであるが,こうした物質の取捨にたずさわる吸収・排出の栄養諸器官と,それによって養われる感覚・運動の消費器官との間には,この両者を結ぶ物質運搬の専用通液路が,その動力源の心臓とともに形成されることとなる。
一般に無脊椎動物では,この通液路として体中の組織間隙(かんげき)があてられ,したがってそこでは,この間隙を満たす組織液さらにはそこを自由に動く遊走性の細胞が,そうした物質運搬の媒体となる。この場合,組織液は心臓の収縮と拡張によって,一定の経路を,最初はあたかも潮の満ちひきのごとく行き来していたものが,やがて体制の進化につれ,はじめて一方交通の循環という形をとることになる。
これに対し脊椎動物では,この通液路は,組織間隙を縦横に走る専用の管状器官,すなわち血管とリンパ管をふくむ独立した脈管系によって構成される。したがって,ここでの物質運搬は,もっぱら,この脈管系を流れる血液とリンパの両者によって営まれ,組織液が直接これに関与することはない。この脊椎動物の心臓は腸管系の血管の一部が肥大分化してできたものであるが,1628年W.ハーベーは,この心臓の拍動によって,全身の血液がつねに一定の方向に循環することをはじめて証明した。循環系の名称はこれに由来するものであるが,その後,こうした環状の走向を示す血管系に対し,リンパ系は,体中の組織間隙から起こって,しだいに合流しながら静脈系の一定の地点に流入する形をとることが知られるようになった。
なお,このような血液の循環によって,ある細胞の排出物質が遠く離れた他の細胞に作用することが可能となり,ここから,ある特定の器官系に対する神経性とは対照的な,体液性の調節支配,すなわち内分泌系のはたらきが始まることになる。
執筆者:三木 成夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
動物体内で体液(血液またはリンパ液)を循環させ、栄養やホルモンの配布、老廃物の排出、ガス交換などをする器官系のことで、脈管系ともいう。
血液の循環系、すなわち血管系には、開放血管系と閉鎖血管系の2型がある。開放血管系には毛細血管がなく、血液は組織の間を流れ、組織液との区別がなく血(けつ)リンパとよばれる。この血管系は、節足動物、頭足類を除く軟体動物などがもつ。一方、閉鎖血管系は次の4型に分けられる。
(1)環形動物型循環系 血液を前方に送る背行血管と、後方に送る腹行血管が環状血管によって連絡されたものである。環形動物と紐形(ひもがた)動物にみられる。
(2)ナメクジウオ型循環系 腹側の腹大動脈によって血液は前方に送られ、咽頭(いんとう)側面の分岐した血管により背側に至って背大動脈により後方に向かう。腸で分岐した血管はいったん肝門脈に集まり、肝臓でふたたび分岐する。以上の二つが無脊椎(むせきつい)動物にみられ、脊椎動物の循環系には次の二つがみられる。
(3)えら呼吸型 1心房1心室の心臓から出た血液が1本の動脈によってえらに送られ、えらより直接全身に送られる。
(4)肺呼吸型 心臓を出て肺を通った血液がいったん心臓に戻り(肺循環または小循環)、ふたたび心臓を出て全身に送られる(体循環または大循環)。
脊椎動物では、肝門脈系や腎(じん)門脈系などを含む血管系をもつほか、血液の血漿(けっしょう)が毛細血管壁から組織に浸出し、大静脈に合流するリンパ系とが分化している。
[村上 彰]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…動物の体制が複雑化するにつれ,体の内側に位置する細胞は,まわりをびっしり他の細胞に囲まれるため,酸素や栄養の供給,老廃物の排出などの面で著しく条件が悪くなる。この点を解決する手段の一つとして発達する機構が循環系で,体液を媒体として栄養物,代謝産物,酸素,二酸化炭素,体熱などを運搬している。酸素は細胞,ひいては1個体が生きていくために不可欠なものであるが,その取入れ方は単に体表面から拡散によって取り入れるものから,呼吸色素を担体とし循環系によってガス交換の場に運ばれるものまで,動物の進化段階に応じてさまざまな方式がとられる。…
※「循環系」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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