翻訳|hydra
腔腸(こうちょう)動物門ヒドロ虫綱ヒドロイド目ヒドラ科に属する淡水産の小動物。ハイドラともいい、元来ギリシア神話中に現れる怪物の名であるが、この怪物のように再生力が強く、古くから生物学者によって再生現象の研究材料として好んで用いられ、そのためこの動物をヒドラとよぶようになった。
ヒドラは腔腸動物のポリプ型であり、クラゲ型はない。池、沼、水田、溝などに浮かぶ水草やまた沈んだ枯れ葉や落ち葉などに付着して生活している。体は円筒形で長さ0.5~1.5センチメートルほどで、先端に口が開き、それを環状に取り巻いて5~8本の糸状触手がある。体は一般に淡橙褐色(とうかっしょく)であるが、栄養状態その他でさまざまであり、ミジンコなどを餌(えさ)として取り入れたあとは濃い橙褐色であり、また体内に単細胞藻類が共生する場合は顕著な緑色を示す。体の下部は種々の程度の短い柄部となっており、その基端で草の葉などに付着する。体の組織中には刺胞がみられ、とくに触手に多く、それらは触手上に間隔を置いてこぶ状に群をなしている。これらの刺胞によってミジンコやそのほかの小動物をとらえて餌とする。
ヒドラは有性生殖も行うが、一般には無性的な出芽が普通である。体側に小さな芽が生じ、それがやがて口や触手を備えるほどに成長すると、親から離れて新しい個体となる。原則として親から離れずにとどまっていて群体をつくるということはない。一方、水温が低くなったりまた栄養が悪くなったりすると、体側に雌あるいは雄の生殖腺(せん)がこぶのようになって1~数個生じ、雌の生殖腺の卵は個の雄個体からの精子によって受精されて受精卵ができる。受精卵は母体上で発生を続け、やがて殻に包まれて母体から離れ、それがのちに孵化(ふか)して小さな新しいヒドラになる。海産の多くの腔腸動物にみられるようなプラヌラ幼生の時期はヒドラにはない。
ヒドラは世界に広く分布し、代表的なヒドラ属Hydraのほかにクロロヒドラ属Chrolohydra、ペルマトヒドラ属Pelmatohydraなどの属も知られるが、後者の二つはいずれもヒドラ属に含めるべきとの意見が多い。日本からも数種が知られている。
[山田真弓]
ギリシア神話の怪物で、九つの頭をもつ水蛇。エキドナ(蛇女)とティフォンの娘で、ヘラクレスを苦しめる目的でヘラ女神によって育てられた。レルネの沼に住んで付近の人畜を害していたが、九つの頭のうち真ん中の頭は不死で、ほかの八つの頭は一撃されると2倍になって生えかわった。ヘラクレスは、12の難業の一つとしてこのヒドラ退治に向かうが、撃てば撃つほど頭が増えるうえ大蟹(かに)が加勢に現れたので、甥(おい)のイオラオスに援助を求めてヒドラの首の付け根を火で焼かせ、真ん中の頭の部分を切り離して地中に埋めて退治した。ヘラクレスはヒドラの胆汁に矢を浸して毒矢とし、一方、ヘラはヒドラと大蟹を星座にあげた。
[中務哲郎]
ヒドロ虫綱ヒドラ科Hydridaeに属する腔腸動物(刺胞動物)の総称。名は,ギリシア神話の多頭の水蛇ヒュドラにちなむ。淡水産で日本各地の池や沼などにすみ,水中の枯葉,枯枝,水草などに付着している。体は高さ5~15mmの細長い円筒形で,前方の口をとり巻いて6~8本の触手がならんでいる。ふつう黄褐色であるが,食物や共生している藻類によって変化することもある。口から胃腔に続くが,肛門がないので,不消化物は再び口からだされる。雌雄異体または同体で,雌雄による有性生殖と出芽による無性生殖を行うが,クラゲをつくることはない。また有性生殖の時期は種類によって異なる。触手には多くの刺胞があり,ミジンコなどの餌に刺糸(しし)を発射して毒液を注入してとらえ口へ運ぶ。足盤と触手とを交互に物に付着させながら移動する。日本では数種のヒドラが知られていて,ヌマヒドラHydra paludicolaやチクビヒドラH.magnipapillataは各地に広く分布し,ヒメヒドラH.parvaは関東以北,エヒドラPelmatohydra robustaは東北地方以北に分布している。
執筆者:今島 実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
… 以上のような失われた部分を復元する修復再生に対し,生理的再生といわれ,表皮や消化管の粘膜上皮や血球などのように,個体の維持のためにつねに行われている再生の過程がある。この再生様式をとることで知られる最も下等な動物ヒドラでは,口部直下の部域より,内外2層のみの体壁にそって細胞が上下に流れ続けており,上方では触角の先端部,下方では基部の中心に達したものから順に脱落していく(図3)。同様の現象が,脊椎動物に至るまで,内外両胚葉の上皮組織に広くみられるということは,生理的再生の過程が多細胞体制の本質に深くかかわるものであることを物語っている。…
…教育の才能をみこまれて貴族の息子の家庭教師となり,その成人後に十分な退職金をもらい,スイスにもどった。彼は教育,政治,宗教などに関する著作を多く書いているが,ヒドラの再生実験を行ったことで有名である。一匹のヒドラを切り離してばらばらにしても,それぞれの部分から再び成体が形成される事実の発見は,当時の発生学論争において,後成説を支持する有力な証拠とみなされた。…
※「ヒドラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新