快-不快(読み)かい-ふかい(その他表記)pleasure-unpleasure(英),Lust-Unlust(独)

最新 心理学事典 「快-不快」の解説

かい-ふかい
快-不快
pleasure-unpleasure(英),Lust-Unlust(独)

快-不快は,感情affect,情動emotionの基本次元である。ブントWundt,W.は,快-不快,興奮-沈静excitement-calm,緊張-弛緩tension-relaxationの各次元からなる3次元説tridimensional theoryを提唱し,シュロスバーグSchlosberg,H.(1952)は,快-不快,注目-拒絶attention-rejectionからなる2次元説(1954年には,眠り-緊張sleep-tensionを加えた3次元説)を,さらにラッセルRussell,J.A.(1980)は,快-不快,覚醒-眠りarousal-sleepinessの2軸により構成される次元上にあらゆる感情は配置されるという感情の円環モデルcircumplex modelを提唱した。いずれのモデルも,快-不快を感情・情動の基本次元とみなしている。これを日常におろすと,好き-嫌いlike-dislikeという感情の反意語対になるが,いずれも対象とする人物,事物事象から喚起される情緒feelingが意識された心的状態である。多くの場合,外部環境から影響を受けるとはいえ,対象に対する個人の評価を伴うことから,評価的感情evaluating affectともいわれる。

 ザイアンスZajonc,R.B.は,被験対象のアメリカ人にとっては無意味な漢字視覚刺激として用いて,漢字への好みはその呈示回数とともに高まることを示した。これを単純接触効果mere exposure effectという。また評価的条件づけevaluative conditioningは,中性刺激を正・負の感情価hedonic valueをもつ刺激と対提示させると,その中性刺激が,同方向の感情価を有するようになるという手続きである。好悪感情には,このような後天的な経験によって獲得されるものが多い。

 ザイアンス(1980)は,意思決定において優先されるものは感情であり,「〝好き〞だから自動車を購入し,〝魅力的〞だから仕事や家を選び,その後になって,さまざまな理由を挙げてこれらの選択を正当化する」と述べた。またダマシオDamasio,A.R.は,推論や意思決定を行なう際には,直感と感じられる身体感覚(快-不快)が生じ,それが重要な役割を果たすとするソマティック・マーカー仮説somatic marker hypothesisを提唱した。このような意思決定における感情優先は,フェスティンガーFestinger,L.による認知的不協和理論cognitive dissonance theoryからも間接的に肯定される。この理論は,不協和によって生じる不快が認知の再体制化(修正)を促すというものであり,感情が認知に優先されて処理されるものとみなしている。

 印象形成impressions formationにおいては,ネガティブな(不快を感じさせる)情報の方が,ポジティブな(快を感じさせる)情報よりも大きな影響力をもつことが知られている。これは対人印象の形成に限定的な現象ではなく,幅広い対象に対して見られる。たとえば,好物の料理が乗った皿の上をゴキブリが走り去ると,その料理には手をつけたくなくなるが,逆のケース(ゴキブリが好物になる)が生じることはめったにない。カーネマンKahneman,D.とトベルスキーTversky,A.によるプロスペクト理論prospect theory(利益損失,およびその確率が不確実な場合の人間行動を説明する)で示される損失回避性(損失嫌悪loss aversion)も,ネガティビティ・バイアスの一つとみなされる。
〔今田 純雄〕

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「快-不快」の意味・わかりやすい解説

快・不快
かい・ふかい
pleasure-unpleasure

感情を構成する主要な要素。好悪次元の両極に位置する。快はそれに対する接近傾向ないし持続欲求を,不快は退避傾向ないし終結欲求を伴う。

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