翻訳|cognition
婚姻関係にない父母の間に生まれた子どもについて、父親の意思表示や、子ども側からの調停申し立て・裁判提起により、出生した日にさかのぼって親子関係を発生させる制度。民法787条は父母が死亡していた場合でも、死亡の日から3年間は裁判を起こし、認知を求めることができると規定している。
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認知とは,嫡出でない子(非嫡出子)と親との間で法律上の親子関係を発生させる手続で,主として父親との間で必要とされるものである。認知には,父親が自発的に自分の子であることを認める任意認知と,子のほうから父親に対して請求し,判決または審判で認められる強制認知の二つの方法がある。
婚外親子関係の発生については,父の認知という形式的行為を必要とする立法のしかた(フランス型)もあるし,また,父子関係は子の懐胎可能期間中に子の母と交渉したという事実によって父と推定する立法のしかた(ドイツ型)とがある。日本の民法は前者を採用し,父子関係では認知を必要とするが,母子関係は子の出生によって当然に発生し,認知は要しないと解されている。
認知の性格は親子法そのものの歴史的発展を反映する。家父長的な家族制度の下では,家族秩序が婚外親子関係によって攪乱されるのは好ましくないと考えられていたので,婚外親子関係は親が自発的に自分の子であると認めた場合にのみ発生するだけで,子のほうから父の捜索をすることは原則として禁じられるか,抑制されていた。このような認知では,父親の意思が重視される意思主義的な性格をもつ。これに対して,親の意思よりも子の利益,福祉の保護が強調されるようになると,親の意思は背後に退き,認知は父親と婚外子との間に存在する自然の血縁関係を法的に確認するという性格に変わる。このような事実主義的な認知では,自然的な事実を確認するという性格が濃厚である。日本の認知法も,意思主義的認知法から事実主義的認知法に発展したとみてよい。
意思主義的な認知法の下では,任意認知は親子関係を設定しようとする意思を外部に表示する意思表示とされる。これに対し,事実主義的な認知法では,親の意思は後退し,自然的血縁があるという事実の承認であって,意思表示ではないとされる。認知は遺言によってもすることができるが(民法781条2項),この場合には,遺言執行者はその職に就いた日から10日以内に認知に関する遺言の謄本を添付して届出をしなければならない(戸籍法64条)。認知する者は意思能力さえあればよく,無能力者であっても,法定代理人の同意を必要としない(民法780条)。民法は認知する者には,父だけでなく,母も含めているが(779条),今日,母子間では,親子としての自然的血縁は分娩により明確にできるから,分娩という事実によって当然に発生するとされ,認知という手続は必要でないとされている(1962年最高裁判所判決)。したがって,認知が問題になるのは父子間だけである。
認知の相手方は嫡出でない子であるが,胎児であっても,また,死亡した子であっても直系卑属がある場合は認知することができる(783条)。このような胎児認知,死亡した子の認知は主としてそれらの者に扶養請求権や相続権を与えるという実益がある。胎児を認知するには,その母親の承諾が必要であるし(783条1項後段),また,成年に達した子を認知するには,本人の承諾が必要である(782条)。さらに,死亡した子を認知する場合,その直系卑属が成年に達しているときは,その者の承諾が必要とされている(783条2項後段)。
任意認知では,認知の無効・取消しが問題になる。認知が無効になるのは,判例では,認知者の意思によらないで認知された場合と認知が事実に反する場合である。この無効は当然無効であるが,必要があれば無効確認の訴え・審判の対象になる。原告は子,その他の利害関係人であるが(786条),誤って認知した本人も認知の無効を主張できるかについては,賛否意見が分かれている。
民法は認知した父はその認知を取り消すことはできないとする(785条)。しかし,その取消しの意味がはっきりせず,見解が分かれる。第1は,認知がなされた場合に,たとい詐欺,強迫によったとしても認知が事実に合致するならば取り消すことができない趣旨だとする見解である。第2は,取消しは撤回の意味だとし,認知が詐欺,強迫によるときは取り消すことができるとする見解で,この考えは認知をもって意思表示とみる立場からは理解が容易である。
(1)訴えの性質 嫡出でない子の利益のために,父親の意に反してでも,親子関係の設定を許す制度で,事実主義的認知法を象徴する制度である。子,その直系卑属またはそれらの者の法定代理人から父親に対して訴えを提起,親子関係の存在が判決で確定され,しかもこの訴えは父の死後3年間提起できる(787条)。
この訴えの性質については,認知法の原理の推移に伴って変化し,死後認知が認められるまでは,父親の認知意思を求める給付の訴えとされていたが,それ以後では,認知は自然の血縁関係が存在することを法的に確認する,という確認の訴えとみる立場が多い。
(2)立証問題 父子関係を確定するのは嫡出子の場合でも困難であるが,まして,その出生が法律婚を基礎としていない嫡出でない子については困難はいっそう増す。しかも,ことがらの性質から父子関係の存在を直接に証明することは不可能であるが,そうかといって通常の訴訟の一般原則に従って立証の能否にかからしめることになれば,立証責任を負う子の側はつねに敗訴になる可能性がある。そこで,今日,子の保護の観点から子の側の立証の負担が軽減されている。かつて,判例は,被告から母親が子の懐胎可能時期に他の男性と性的交渉があったという抗弁(不貞の抗弁,多数当事者の抗弁)が提出されると,子の側が母親と他の男性との間に性的交渉がなかったということを証明しなければならないとし(1934年大審院判決),学説から批判されていた。そこで,今日では〈父子関係〉の存在について可能性が高いと評価できる一定の事実,すなわち,子の懐胎可能の時期に子の母が被告と性的交渉のあったこと,被告以外の男性と性的交渉があった事実が認められないこと,子と被告との間に血液型の背馳がないこと,子を命名するなど,子に対して父親らしい愛情を示す態度をとったことなどが証明されるならば,ほかに特段の事情がないかぎり,被告は子の父と認めている(1957年最高裁判所判決)。
任意認知では認知届が受理され,強制認知では判決が確定すると,父子間に法律上の親子関係が発生する。もっとも,父子の戸籍に認知に関する事項と子の父欄に父の氏名が記載されるだけで,父の認知があっても,親権(819条4項,5項),氏(790条2項)に変更は生じない。また,認知の効力は第三者の権利を害さないかぎり,子の出生にさかのぼって生ずる(784条)。もっとも,相続に関しては,特別規定がある(910条)。
任意認知は戸籍法上の届出による要式行為である(民法781条1項,戸籍法60条,61条)。判例は,父親が嫡出でない子につき,戸籍上嫡出子出生届をした場合にも,その出生届には自分の子として承認する意思表示が含まれているとして認知の効力を認める(1978年最高裁判所判決)。もちろん,血縁上父子関係のない者が戸籍上嫡出子として届け出られても,それには認知の効力は認められない。
執筆者:有地 亨
法例によれば,国際的な非嫡出親子関係における認知の要件は,父または母に関しては認知当寺の父または母の本国法,子に関しては認知当時の子の本国法による(法例18条1項)。胎児の認知につては,胎児には国籍がないから認知当時における母の本国法をもって胎児の本国法とみなすべきである。また死亡した子の認知については,その死亡当時における子の本国法によるべきである。以上の原則は,任意認知にも強制認知にも適用される。認知の要件については,上のように親と子の本国法の配分的適用主義がとられているから,一方の当事者の本国法上認知を認めない場合には,認知を請求することができないことになる。しかるに,一方の当事者の本国法上強制認知(死後認知を含む)の制度のない場合につき,公序を理由として(30条),その本国法の適用を排斥して認知を認めた判決がある。認知の方式については,法例に特別の規定がないから,法律行為の方式に関する一般原則たる法例8条の適用を受ける。ただし,遺言によって認知の行われる場合,その遺言の方式は,遺言の方式の準拠法に関する法律による(31条)。認知の効力,すなわち認知による非嫡出親子関係の成立は,父または母の本国法による(18条2項)。時期についての定めがないが,ひとたび認知によって親子関係が確定した以上は認知者の国籍変更によって変化を受けることは妥当でないから,認知当時における父または母の本国法によると解すべきである。認知による非嫡出親子関係の成立の結果として親子が身分上ならびに財産上いかなる関係に立つかは,法例20条に属する問題である。なお,法例改正要綱試案(親子の部)は,認知の要件については認知の当時における子の属人法によるとして,子の保護に重点を置き,認知の方式については,認知保護の思想から,認知の当時における子の属人法,父もしくは母の属人法または行為地法によるとして,認知の方式をできるだけ広く認める立場をとり,さらに認知による非嫡出親子間の法律関係については諸国の傾向にならい,子の属人法によるとしている。
→私生児 →嫡出子 →嫡出でない子
執筆者:山田 鐐一
生理学・心理学用語。生体のもつ情報収集,情報処理活動の総称。cognitionは一般には認識と訳され,知識の獲得過程や知識それ自体を意味するが,心理学や生理学では,上記のような意味で,認知と訳されることが多い。認知は感覚,知覚,記憶など,生体が生得的または経験的に獲得した既存の情報にもとづいて,外界からの情報を選択的にとり入れ,それを処理して新しい情報を生体内に蓄積し,さらにはこれを利用して外界に適切な働きかけを行うための情報処理の過程のことをいう。
認知の生理学的側面,すなわち脳の情報処理の問題については,主として大脳生理学,神経生理学の領域で扱われている。19世紀末から20世紀にかけて,P.ブローカによる運動性言語野の発見(1861)以来,C.T.フリッチらによる運動野の発見,O.フェルスターやW.ペンフィールドによる体部位局在地図の作成(1936)など,脳機能についての研究が行われてきた。さらに1950年代になって,微小電極法が開発され,脳の神経細胞の反応が記録されるようになって,脳の情報処理についての報告が数多く蓄積された。とくに,D.H.ヒューベルとT.N.ウィーゼルが63年にネコの視覚野に,細長いスリットなどに特異的に反応する細胞を発見して以来,急速に進んだ。現在では,感覚,知覚の情報処理ばかりでなく,記憶,学習といった高次の情報処理についての研究も進められている。
一方,認知の心理学的側面については,認知心理学の分野で主として扱われている。認知心理学はゲシュタルト学派の影響のもとに,アメリカで主流であった行動主義に重点をおく連合説,要素説を批判する立場から,1950年ころに確立された。初めに認知心理学的立場をとり入れたのは学習研究の分野であったが,後に,社会心理学,性格心理学,臨床心理学にも影響を与えた。60年代のJ.ギブソンらによる,実験心理学内での理論構成の試みや,W.ケーラーの〈横の機能〉概念の提唱など,種々の研究が行われている。認知心理学では生体の諸活動の説明にあたって,極端な行動主義的立場をとらず,生体の生得的構造特性による諸制約を重視して,内的な情報処理活動を強調する立場をとっている。しかし,現在では行動主義そのものの多様化と,認知心理学でも外部環境との相互作用の重要性が認識されてきたことから,必ずしも認知心理学が反行動主義的とはいえなくなってきている。
認知の概念はきわめて多様な精神活動を含んだものであるため,認知研究は上記の生理学や心理学のみならず,多くの分野で進められつつある。情報科学の分野では,パターン認識,課題解決にあたっての情報処理過程のシミュレーション,記憶,学習システムのモデル化,人工知能の研究などが進められている。また,言語学では言語獲得の生得的側面,言語理解,言語使用の認知システムなどが研究されている。近年,これら関連領域の学際的協力も進められており,認知科学cognitive scienceの名で総称されることも多くなってきた。
→学習 →記憶 →知覚
執筆者:酒井 英明
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法律上、婚姻関係にない男女間に生まれた子(嫡出でない子、婚外子)を父または母が自分の子であると認めること(民法779条以下)。婚姻外の関係から生まれた子と父母との間には、認知があって初めて法律上の親子関係が生じる。民法は父または母が認知できると規定しており(779条)、したがって、民法は、父子関係においてだけでなく、母子関係においても認知によって初めて法律上の親子関係が生じることを前提としていることになる。しかし、母子関係は分娩(ぶんべん)という事実により明らかであるから、母の認知という行為を必要とせずに、子の出生と同時に法律上の親子関係が生じるとされている。
認知には、親が自由な意思によってするもの(任意認知)と、親が認知しない場合に子の側から裁判所に訴えてなされる認知(強制認知)とがある。任意認知は戸籍の届出によってする(民法781条1項、戸籍法60条)。したがって、認知の意思を子または母に対して直接に告げても、それだけでは認知をしたことにならない。この点においては、認知について形式の要求は厳格であるが、他方では、この要求は緩和されている。すなわち、認知をするには認知届をするのが本来であるが、父が認知届でなく出生届をしてそれが受理されると、その出生届には認知届としての効力が認められる。なお、遺言によって認知をすることもできる(民法781条2項)。この場合には、認知届が必要ではあるが、父が死亡すると同時に認知の効力が生じる。
強制認知は、子、その直系卑属(子、孫など)またはこれらの法定代理人が原告となって父または母となるべき者を訴える(民法787条本文)。この訴えを認知請求の訴えという。父または母が死亡したときには、検察官を相手方とする(人事訴訟法42条)が、父または母が死亡した日から3年を経過すると認知の訴えは提起できなくなる(民法787条但書)。認知があれば、子の出生のときにさかのぼって親子関係が生じる。しかし、このことは、婚姻外の関係から生まれた子が嫡出子たる身分を認知によって当然に取得することを意味するわけではない。
[高橋康之]
なお、国際的親子関係については、項目「嫡出でない子」の「国際私法上の親子関係」を参照されたい。
[編集部]
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…(2)親子関係は生物学的な血縁関係を基礎にすることから,現代親子法も原則としてこの血縁主義の原理によっているし,また,学説,判例により血縁主義を貫徹させようとする解釈がなされている。たとえば,婚外子について,以前は,認知は意思表示であって,するしないは父親の自由であり,認知すれば,その効果として親子関係が形成されると解されていた。しかし,現在では,認知をもってすでに存在している親子の生物学的な血縁関係を法律の面で確定するものとされている。…
…これらのいくつかの感覚が組み合わされ,ある程度過去の経験や記憶と照合され,行動的意味が加味されるとき知覚が成立する。さらに判断や推理が加わって刺激が具体的意味のあるものとして把握されるとき認知という。例えば,われわれが本に触れたとき,何かにさわったなと意識するのが感覚であり,その表面がすべすべしているとか,かたいとかいった性質を感じ分ける働きが知覚であり,さらにそれが,四角なもので,分厚く,手に持てるといった性質や過去の同種の経験と照合して本であると認知されるのである。…
※「認知」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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