感染性関節炎

内科学 第10版 「感染性関節炎」の解説

感染性関節炎(リウマチ性疾患)

定義・概念
 感染性関節炎とは病原微生物が直接関節内に侵入することで発症する関節炎である.
分類
 急性と慢性に分類する.反応性関節炎は無菌性関節炎であり感染性関節炎には含まない.
原因・病因
1)急性:
細菌性(化膿性),ウイルス性.
2)慢性:
結核性,真菌性,梅毒性,Lyme病(Lyme関節炎),一部の細菌性など. 感染経路は①外傷,手術や関節穿刺などに伴う直接感染,②呼吸器や尿路など遠隔感染巣からの血行性感染,③皮膚など軟部組織の感染巣や骨髄炎,人工関節の感染など隣接する感染巣からの波及がある.高齢,糖尿病や悪性腫瘍,皮膚疾患などの基礎疾患,抗癌薬,ステロイド薬,免疫抑制薬による治療中,人工関節術後や関節穿刺などが危険因子となる.
 細菌性関節炎の起炎菌は黄色ブドウ球菌が最多であり,ついで溶連菌が多い.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus:MRSA),Gram陰性桿菌,嫌気性菌の場合もある.ウイルス性関節炎の原因は,B型・C型肝炎ウイルス(hepatitis B virusHBV,hepatitis C virus:HCV),ヒトパルボウイルスB19,HIV(human immunodeficiency virus),HTLV-1(human T-cell leukemia virus type 1)が代表的である.非結核性抗酸菌による関節炎はMycobacterium kansasii,M.marinum,真菌性関節炎の原因はカンジダ,特にCandida albicansが多い.スピロヘータによる関節炎は梅毒とLyme病がある.Lyme関節炎はマダニに寄生するBorrelia burgdorferiが吸血に伴い患部皮膚から体内に侵入し,全身伝播され生じる.
病態生理
 細菌は関節内に侵入後急速に増殖し,急性滑膜炎を惹起する.細菌由来の酵素や多核白血球,増殖滑膜が産生する炎症性サイトカインや蛋白分解酵素による関節軟骨基質成分の変性や滑膜肉芽組織の骨・軟骨への直接浸潤が関節破壊を進行させる.ウイルス感染では,ウイルスの関節への直接影響に加え,ウイルス感染に伴う免疫複合体や自己抗体の誘導,ウイルス蛋白と関節成分の分子相同性も発症に関与するとされる.
臨床症状
1)細菌性:
多くは単関節炎だが,菌血症に伴い多関節炎を生じることもある.局所の急激な疼痛,腫脹,熱感,発赤をきたす.発熱や悪寒も伴う.淋菌性関節炎は淋菌性敗血症から生じ,移動性多関節炎を呈する.
2)ウイルス性:
ウイルス感染後1〜2週で多関節炎が急性発症する.通常2週間程で自然軽快するが,遷延化する場合もある. a)HBV:感染者の10〜25%で肝障害出現の数日〜数週前に倦怠感,発熱などとともに手指小関節,膝,肘関節などに対称性多関節炎をきたす.一過性で,肝障害出現時には消退する. b)HCV:感染者の2〜20%に主として関節リウマチrheumatoid arthritisRA)様の多関節炎が生じる.
 c)パルボウイルスB19:感染者の約1/3が,小児では伝染性紅斑,成人では手指,手,肘,膝,肩関節などに急性対称性多関節炎を呈する.関節炎は通常2〜14日で消退するが,数カ月以上持続したり,RAへの移行症例や全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)様の所見を呈する症例もある.
 d)HIV:感染者の0.4〜12%で単関節炎から手指小関節を含む対称性多関節炎をきたす.半数以上が後天性免疫不全症候群(AIDS)発症後の発症だが,約1/3は非顕性期の発症である. e)HTLV-1:キャリアは緩徐で進行性のRA様の多関節炎をきたすことがある.
3)結核性:
膝,股,足関節など下肢荷重関節の単関節炎を生じる.非結核性抗酸菌による関節炎は手指,手関節に多い.
4)真菌性:
通常単関節炎で,膝関節に多い.
5)梅毒性:
先天性梅毒では,生後2〜3週の急性骨端炎(Parrot仮性麻痺),学童期の両膝関節の無痛性関節水症(Clutton関節),より後期の脊髄癆に伴う神経傷害性関節症で発症する.後天性梅毒では梅毒罹患後2〜3週で発熱とともに多関節炎を呈する.
6)Lyme関節炎:
膝関節に好発し,発病後2〜3年で慢性多関節炎を生じる.
検査成績・診断
 感染性関節炎を疑う場合まず関節穿刺を行う.関節液や関節外感染巣の検体の培養検査,臨床経過,血液検査などに基づき診断する.
1)細菌性:
血液検査で白血球増加,核の左方移動,赤沈亢進やCRP上昇など炎症反応を認める.関節液は膿性混濁し,白血球数は多核白血球を中心に5万/μL以上と著増する.関節液の粘稠度とグルコース値は低下する.関節液で細菌を検出すれば診断は確定するが,抗生物質治療開始後で起炎菌同定が難しい場合は滑膜など組織の培養検査や病理組織検査を行う.X線,CT,MRI,シンチグラフィは病変の広がりや骨破壊の程度などが評価できる.
2)ウイルス性:
関節液でリンパ球優位の白血球増加をみる.HTLV-1関節炎では関節液や滑膜組織に成人T細胞白血病様細胞を認める.
3)結核性:
炎症反応に加え,ツベルクリン反応や結核抗原特異的IFN-γ(クォンティフェロン)の陽性化をみる.関節液は混濁し,細かな粒子が浮遊する.関節液中の細胞はリンパ球が主体である.関節液の培養検査での結核菌検出率は60〜70%で,小川培地は検出に4〜8週を要するため液体培地やPCR法も併用するが,培養検査陰性で本症は否定できない.滑膜生検を行い,Ziehl-Neelsen染色法などによる結核菌の検出や病理組織学的に類上皮肉芽腫を証明することも有用である.
4)真菌性:
炎症反応は細菌性関節炎より弱い.血中β-d-グルカンやカンジダなど真菌抗原を測定する.カンジダでは関節液は特有の暗赤色調を呈する.関節液または組織の培養検査やグラム染色,PAS染色などで真菌を証明して診断する.滑膜の病理組織所見としておもにリンパ球や形質細胞の浸潤を認める.
5)Lyme関節炎:
臨床経過(特に慢性遊走性紅斑)と流行地訪問歴の確認,Lyme病スピロヘータに対する特異抗体の存在を証明する.
鑑別診断
 関節外症状にもよるが,細菌性関節炎では結晶性関節炎,ウイルス性関節炎ではRAや膠原病に伴う関節炎などと鑑別を要する.
合併症・経過・予後
 関節破壊・変形,機能障害を残す.細菌性関節炎では敗血症やDICを呈する場合があり,死亡率は単関節炎症例で4〜8%,多関節炎症例で30〜40%となる.年齢,基礎疾患や使用薬剤,罹患関節の状況などで予後は左右される.
治療・予防・リハビリテーション
1)細菌性:
関節破壊が急速であり,早期の治療開始が関節機能を温存する決め手である.罹患関節の安静と抗生物質投与が基本となる.広域スペクトル抗生物質を開始し,培養検査結果に基づき調整し,2〜3週間は経静脈的に投与する.抗生物質の早期終了による再燃と長期投与による菌交代,耐性菌出現に留意する.また切開排膿,持続洗浄,ドレナージも行う.適宜,病巣掻爬,滑膜切除なども考慮する.炎症が沈静化すれば関節運動を行う.
2)ウイルス性:
非ステロイド系抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatry drugs:NSAIDs)で対応する.HCV関節炎では少量のステロイド薬を使用することもある.
3)結核性:
罹患関節の安静と肺結核に準じた標準抗結核化学療法,適宜手術療法を行う.
4)真菌性:
抗真菌薬の全身投与を行う.適宜排膿・洗浄や手術療法を行う.
5)梅毒性関節炎ではペニシリン,Lyme関節炎ではLyme病に準じた抗生物質治療を行う.[東 直人・佐野 統]
■文献
井上 一:感染性関節炎.リウマチ基本テキスト,第2版(日本リウマチ財団教育研修委員会編),pp492-495,日本リウマチ財団,東京,2005.
佐々木毅:感染性関節炎.日内会誌,99: 2484-2489, 2010.
首藤敏秀:感染性関節炎.最新整形外科学大系,19 関節リウマチと類縁疾患,第1版(越智隆弘編),pp309-317,中山書店,東京,2007.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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