腎臓の機能が失われると、血液中に老廃物がたまる。これを専用機器で取り除く人工透析は通常、週に3回通院し、1回当たり4時間かけて血液をろ過するため、生活に大きな負担がかかる。途中でやめると数日から数週間で死亡するが、心身の負担のほか、血管が弱い、意識がないなど、物理的な理由で透析をしない患者がいる。東京都内の公立福生病院で、自ら希望して透析をやめて2018年に死亡した女性の遺族が、病院側に損害賠償を求めて提訴したケースが注目された。訴訟は和解し、和解条項で患者への説明や意思確認が不十分だったとされた。
更新日:
出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報
透析療法dialysisの一つ。腎不全のために,腎臓のもつ老廃物排出機能が著しく障害されたときに,透析器dialyzer(一般には人工腎臓という)を用いて,血液を透析,ろ(濾)過する方法をいう。血液透析hemodialysisともいう。1910年代から試験的に行われていたが,本格的に行われるようになったのは50年代以降である。
半透膜のもつ物質の選択的透過性を利用して,血液中に蓄積された老廃物をろ過するもので,半透膜を透過する物質は膜の両側の濃度差によって,濃い側から薄い側へ移動する。したがって,半透膜と透析液dialysateを適切に選択すれば,腎臓のもつろ過機能に近い成績を期待することができる。現在,人工透析に用いられている半透膜は,クプロファン膜では分子量5000以下の物質を自由に透過させることができる。この場合,血漿タンパク質は移動しない。そこで,透析液として正常血漿と類似の液を用い,一定の圧力を加えて限外ろ過を行うことによって,糸球体でのろ過と同じようなろ過を行うことができる。
透析装置は透析器を中心にし,血液と透析液を流すためのポンプや透析液供給槽が組み合わされたもので,現在,日本で用いられている透析器にはコイル型,積層型,中空繊維型の3種がある。コイル型はコルフ型とも呼ばれ,帯状の半透膜をコイル状に巻き込み,上方から血液,下方から透析液を流して,透析を行う。積層型では,透析膜を2枚重ね,膜間を血液,膜外を透析液が流れ,中空繊維型では,多数の中空繊維を束ね,中空繊維内を血液が,外側を透析液が流れる。これら3型の間に機能の優劣はほとんどない。
生体から装置への血液の流し方は,かつては,そのたびごとに動脈,静脈に穿刺(せんし)して血液の体外循環を図っていたが,反復透析が困難であったため,後には動脈,静脈にチューブを挿入して固定し,透析以外のときは双方を結ぶ外シャント方式がとられるようになった。しかしこの方法でも血栓の形成や感染などの合併症が起こりやすく,シャントが数ヵ月~2年しかもたないなどの欠陥があるため,現在では動脈と静脈を生体内で連絡させ,動脈化した静脈に2本の針を刺して固定させる内シャントの方法が用いられている。
透析に要する時間は病態によって異なるが,急性腎不全の初期は1回2~4時間で連日,慢性腎不全では1回3~5時間,週2~3回が必要とされている。
慢性腎不全に対する人工透析は現在確立された治療法となっており,1995年現在,約15万5000人がこの療法を受けており,毎年約1万人ずつ増加している。なお人工透析の様式には,家庭で行う家庭透析,病院で患者自身が行うリミテッド・ケア透析,病院透析の3種があるが,日本では家庭透析は普及していない。
人工透析に際しては,透析中の過誤による空気塞栓や出血,細菌感染,また一時的に血液が体外へ流出することによる血圧の低下やショックなどのほか,不均衡症候群,透析性認知症,出血,血清肝炎などの合併症を併発することがある。
不均衡症候群disequilibrium syndromeは血液-脳関門での物質の移動が血液の清浄化に対応できないため,髄液と血液の間に浸透圧などの差が生じて,脳浮腫となるために起こると考えられ,透析30分前後から,悪心,嘔吐,血圧上昇などが起こり,全身の痙攣(けいれん)や意識障害に至ることもある。透析性認知症は進行性認知症,不随意運動などを示し,予後は一般に不良である。出血は透析中に抗凝血薬のヘパリンを用いることから起こるもので,硬膜下出血が多い。血清肝炎は末期腎不全で輸血の機会が多い場合にみられ,4~5%の頻度といわれている。
腹膜透析peritoneal dialysisは腹膜灌流ともいわれ,人工透析と並ぶ,いま一つの透析療法である。人工透析が人工の半透膜を利用して血液をろ過するのに対し,腹膜透析は自己の腹膜を利用して血液の清浄化を図る方法である。方法は,へその下から腹腔内へ側孔のあるカテーテルを挿入して,500~2000mlの灌流液を注入,しばらく置いて,灌流液を交換するもので,15~60分おきに20~80lの液交換を行う。人工透析に比べ,心臓への負担が少ないことや不均衡症候群の発生が少ないなどの利点があり,高度の尿毒症のある場合などに適用されるが,長期の透析療法としては,人工透析のほうが優れている。
→腎臓 →腎不全
執筆者:菊池 祥之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(星野美穂 フリーライター/2019年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
腎(じん)(臓)が十分にその機能を営まなくなったときに、透析膜の物理化学的性状を利用して、その機能を人工的に代用させる治療法をいう。本来、腎は三つの機能を有する。第一に過剰の水とタンパク質代謝の窒素含有性老廃物(尿素、クレアチニン、尿酸)を分泌すること、第二に血漿(けっしょう)の酸・塩基平衡と電解質濃度を調節すること、第三に内分泌機能を営むことである。人工透析では第三の機能については代用できない。
溶質には分子の大きさによって晶質と膠質(こうしつ)との2種類がある。晶質は小さな分子で、たいていの半透膜を透過する。無機塩、アミノ酸、糖、その他の小分子の有機化合物が含まれる。一方、大部分のタンパク質と多糖類は膠質とよばれ、たいていの自然膜を透過しない。透析膜というのは、晶質は通過させるが膠質を通過させない膜のことである。
人工透析には二つの方法がある。第一は患者自身の透析膜を利用する方法で、腹膜がこの目的にもっとも適しており、腹膜透析または腹膜灌流(かんりゅう)という。第二は患者の血液から老廃物と毒素とを取り除くように構成された溶液中に人工の透析膜(PEPA膜など)でつくった管を浸し、この管の中に患者の血液の一部を循環させる方法で、血液透析とよび、この目的のために用いられる器械のことを人工腎臓という。
[中村 宏]
『前田憲志編著『人工透析・CAPD』(1995・永井書店)』▽『大平整爾著『透析療法の基本と実際』第2版(2001・中外医学社)』▽『佐中孜・秋葉隆編著『透析療法――専門医にきく最新の治療』第2版(2003・中外医学社)』▽『澤西謙次監修、齊藤昇他編著『透析患者と食事管理』第2版(2006・第一出版)』▽『秋澤忠男編『やさしい透析患者の自己管理』改訂第3版(2007・医薬ジャーナル社)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
血液と透析液を半透膜を介して接し,ドナンの膜平衡によって血液中の尿素ほかの有害物を取り除く医療.最近では,腎不全患者の血液をホロファイバー状の半透膜を通過させる方式がとられている.腎臓が悪くなると,造血ホルモンであるエリトロポイエチンも分泌されなくなるので,透析患者では補充療法が必要である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新